ある飲食店から、ランチメニューの改善についてのご報告をいただいた。と言っても料理の中身やメニュー構成の話ではなく、メニューの表現、書き方・見せ方についての改善だ。
添付されていた旧メニュー表と新メニュー表の違いは、一見して際立っている。
例えばそこには「手打ちそば膳」という料理があるが、以前は料理名と内容(小鉢、お造り、揚げ物、等々)だけが、文字だけで羅列されていた。こういうメニュー表は一般的であちこちで見かけるものだが、新メニューではそこに写真をあしらい、直感的にどんな料理なのか分かるようにした。そして、「今回は岐阜県美山産のバルバリーを使用」などの料理ごとの詳しい説明や、「お客様アンケートでリクエストの高い」などの文言を加えた。また、「天ぷら膳」では、天ぷらに使う野菜の揚げる前の写真も見せるなど、ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)的な改善を繰り返した。その結果、近年下降していたランチの売上は上昇に転じ、以前はお手頃な価格の料理がランチの主流だったが、今は自慢の鰻丼や懐石も出るようになった。ちなみに鰻丼は3300円と、けっこうなお値段。懐石に至っては4800円だ。ところがこのようなメニューの改善を重ねてみたら、いずれもコンスタントにオーダーが入るようになったのである。
と、メニューの改善について詳しく触れてきたが、ここで私がお伝えしたいのは、その詳細な改善点についてではない。重要なのは「視点」であるということだ。
ワクワク系の視点で点検すると、日常業務の中にも改善できることが山のように見つかる。しかし、逆に言えば、その視点を持たない限りそれは見つからない。この例で言えば、ランチの売上が下がってきたとき、ワクワク系的視点がなければ、「メニュー表の表現が足りないのではないか」という思考は働かない。そのように思考が働かなければ、メニュー表を改善しようとも思わないし、改善行動は起こらない。そして、適切な行動が成されなければ、良い結果は生まれない。
同店でも、実はこのメニュー表、4年間放置されていたという。店主らは「ランチのお客様は大事だと知っていたのに、自分たちが取っていた行動はそれにそぐわなかった」と振り返るが、視点がなければ気づかないものだ。そして、改善すべきが放置され、ともすれば「価格が高いのではないか」といった方向へ向いてしまう。
このような実践と成果のポイントは、実は「視点」なのである。
(小阪 裕司)