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第 23 回 「なぜこの健康茶は13 倍になったのか」

前回、チラシの内容を変えたことで、売上が13倍になった美容院の話をした。それに続いてこういう例をお話ししよう。ある整体院での話だ。この院で扱っている健康茶があった。とてもいいもので、院としては自信を持ってお薦めできるのだが、なかなか利用してもらえず、売上が伸びない悩みがあった。そこでこの院でも、前回お伝えしたようなアプローチを行ったところ、こちらも前回同様、売上が約13倍になった。こういったアプローチは私たちが価値創造や動機づけと呼ぶものだが、これには秘訣がある。実際にこの院が行ったことを追ってみよう。

この院ではまず、売っていることに気づいてもらうため、POP(店頭販促物)を作成し、院内に掲示した。さらに味のお試し用に小分けパックを作り、POPと同じデザインにして統一感を持たせ、院内受付カウンターの脇に置いてみた。すると早速来院客が気づき、「このお茶って、いいらしいですねえ」と話題になった。

話題になったのは一歩前進だが、お客さんのリアクションから、「お客さんはまだ、何がどういいのかあいまいなようだ」と彼らは思った。そこで次に、「何がどういいか」をより具体的に示してPOPに付け足した。するとお客さんの反応が変わり、「○○にいいんですね」などと返ってくるようになった。

しかし続いて「どうやって飲むの?」との質問が多くあったことから、彼らは「そうか、飲み方がよく分からないんだ」と感じ取り、簡単な飲み方を書き、POPに付け足した。すると続いて、「先生はどうやって飲んでるんですか?どれくらい?いつ?」といった質問が寄せられたことから、お客さんは、院の先生である自分たちの飲み方を参考にしたいのだとさらに気づき、自分たち流の飲み方チラシを作成、それをもとに説明をし、手渡すようにした。こうして一連の流れが完成すると、商品はどんどん売れていったのである。

売れなかった商品が売れるようになる――われわれの現場ではよくあることだが、その現場を見るといささかユニークなPOPやチラシなどが見られる。そこで多くの方はこのPOPやチラシの内容や作り方が成果の秘訣と思うのだが、それらは試行錯誤の結果であって秘訣ではない。この試行錯誤、なかでも今回の例のように、お客さんの心の動きを読んだ試行錯誤こそが、真の成果の秘訣なのである。

また、この試行錯誤のスピードを速めること。これが、今日の動きの速い社会では重要で、「じっくり練る」より「早く実行」ということだ。その際、考える基盤がずれていると、やることすべてがずれてしまうため、要注意だ。お客さんの心の動きを試行錯誤の軸に据え、案や改善点が浮かんだらスピーディーに実行し、試行錯誤を繰り返すこと。それこそが今日、結果を生み出す秘訣なのである。

(小阪 裕司)

筆者プロフィール
:山口大学人文学部卒業(美学専攻)後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。人の「感性」と「行動」を」軸にした独自のビジネスマネジメント理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。
近年は研究にも注力し、工学院大学大学院博士後期課程修了。学術研究と現場実践を合
わせ持った独自の活動は、多方面から高い評価を得ている。
「日経МJ」(NikkeiMarketingJournal・日本経済新聞社発行)での460回を超える人気コラム「招客招福の法則」をはじめ、連載・執筆多数。著書は、新書・文庫化・海外出版含め39冊。
九州大学客員教授、静岡大学客員教授、中部大学客員教授、日本感性工学会理事。詳細はwww.kosakayuji.com。

N.A.P. Staff
北米報知は、ワシントン州シアトルで英語及び日本語で地元シアトルの時事ニュースや日系コミュニティーの話題を発信する新聞。1902年に創刊した「北米時事 (North American Times)」を前身とし、第二次世界大戦後に強制収容から引き上げた日系アメリカ人によって「北米報知(North American Post)」として再刊された。現存する邦字新聞として北米最古の歴史を誇る。1950年以前の記事は、ワシントン大学と北米報知財団との共同プロジェクトからデジタル化され、デジタル・アーカイブとして閲覧が可能(https://content.lib.washington.edu/nikkeiweb/index.html)。