日本の毎日新聞社と一般財団法人毎日書道会が主催する毎日書道展で、レドモンド所在の明藤書道会から39名が漢字部で入選した。第72回となった今年の開催には2万4858点が公募出品され、全国10都市を四カ月間に渡って巡回する書道展は、7月に国立新美術館と東京都美術館で東京展が開催された。明藤書道会からは、秀作賞に東京都在住の松野大輔さん、佳作賞にシアトル在住のウィンストン香織さんとテキサス州在住のマザ洋子さん、U23(23歳以下の部)でレドモンド高校3年生の鷹松昂暉さんが最高賞であるU23毎日賞、ウッディンビル高校3年生のウォング忠義さんがU23新鋭賞を受賞した。
明藤書道会会長で、毎日書道展審査会員でもある藤井良泰氏は、「私たちが使っている平仮名もふくめて、文字の基本は漢字。古き良き古典作品を丹念に臨書することから書学は始まります。小さな積み重ねの結果です」と、今年の好成績について語る。秀作賞の松野さんは、日本の省庁からワシントン大学へ留学している際に藤井氏の教室へ通い始めた。松野さんは、「留学に際して、上司からアメリカで一生の趣味を見つけるようにと言われました。それが日本古来の書道と結びついたのは、ひとえに藤井先生との出会いでした」と、秀作賞に至るまでを振り返る。
U23毎日賞受賞の鷹松さんは現在17歳の高校生。出品者の多くが大学の書道部員というなかで、高校生が受賞するのは稀なケースだ。「海外からの出品での最高賞は鷹松君が初めて。彼は今年の「書の甲子園(*)」でも臨顔真卿で準大賞を受賞していて、これからが楽しみな逸材です」と藤井氏は、鷹松さんの健闘を称えている。
明藤書道会(meitokai.net)は、1996年に藤井氏がレドモンドで設立した書道会。書道展開催及び地域への書道紹介など書文化の普及のために活動する非営利団体で、現在約150名が所属している。
鷹松昂暉さんにインタビュー
書道を始めたきっかけ
中学1年生でシアトルに渡米して、両親に勧められて明石書道教室(明藤書道会学生部)へ通い始めました。最初は嫌だったのですが、すぐに夢中になりました。毎回通うたびに、自分の実力が上がっていくのがわかって、どんどん楽しくなりました。日本からアメリカへ来たばかりの頃は、英語も全くヒアリングができずにコミュニケーションが取れなくて、学校生活でも大変な時期もありました。書道教室は、日本人らしさがつまった場で、居心地もよかったです。藤井先生は、書道に取り組む上での所作や作法、姿勢の作り方も大切にされます。そうした型が窮屈と感じる人もいるのかもしれませんが、僕はそれが日本らしくて好きでした。
受賞に至る道のりは?
まだ僕は修行している身なので、先ずは先生の字を見て、こういう線はどうやって出すのか、この形はどこにいれるのかな、という具合で真似をして練習します。作品中の文字がない白紙のスペースを、藤井先生は「澱みない緩やかな川の流れのように」という表現で説明されます。僕は滝の流れをイメージして、美しいスペースが現れるように文字の置き方のバランスを考えるようにしています。また、どこに「かすれ(*)」を入れるのか、かすれを目立たせるために周りに墨を沢山つけた黒でどう囲むかなども意識します。本当に奥深い世界にのめり込みながら練習しました。
毎日書道展出品に向けては、週2回のクラスで頂く先生のお手本を見て、自宅で何枚も練習した上で、自分で良いと思った5枚ずつを、先生へ戻して指導していただくということを繰り返しました。53x 175㎝サイズの大きな紙に200枚以上は書いたと思います。
これからの夢や目標を教えてください。
高校を卒業したら、大学でデジタル・デザインを学びたいと思っています。書道を含めてアートが好きで、パソコンも好きなんです。自分の好きな2つを両立して進んでいけるような道を考えたときに、デジタル・デザインの仕事をしたいなと考えるようになりました。書道については、書の甲子園で最高賞を取ることを目標に、これからも頑張っていきます。
*書の甲子園とは、毎日新聞社が主催する国際高校生選抜書展の愛称。
*かすれとは、渇筆とも呼ばれ、筆に含まれている墨を少なくしてかすれるように書く手法。
(文=室橋美佐)