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第33回「当たり前」は本当に当たり前?

今月の話題は、あるハウスクリーニングサービス会社社長から報告いただいた話。

同社は、多くの家庭に清掃用具のレンタルをしており、そこからハウスクリーニング受注につなげている。しかし、初回のクリーニングサービス利用という最初のハードルを越えてもらうのがなかなか難しい。「どうやったらそのハードルを越えてもらえるのか?」と社内会議が始まった。
同社が提供するクリーニングサービスの中で最も受注数が多いのが「エアコンクリーニング」か「レンジフードクリーニング」だという。そこで、レンジフードクリーニングのキャンペーンを行うことにした。「レンジフード」とは、キッチンコンロの上に屋根のように覆いかぶさって付いている換気扇のことだ。

実は、過去にもレンジフードクリーニングのキャンペーンは行ってきた。キャンペーンの内容は値引き。しかし、もう値引きはしたくない。代わる特典を考えることにした。

そこで社長が、「無料追加サービスとして、どこか1箇所プラスで掃除をするのは?」と提案。現場の担当者からは、「清掃先の家の大きさや汚れ具合が様々なので適当な1箇所を選ぶのが難しい」との声がでた。「なんでもいいんだよ。小さなところでも」と社長。すると、「キッチンシンクは清掃時に物を置いたりするので、作業終了後はいつも掃除してくるんですけどね」とのこと。そこで社長が「そのことはお客さまに話しているの?」と聞くと、「いや、特に話していません。当たり前のことですから」と返ってきた。そこで、「お客さんが知らないのではもったいない。アピールする意味も含めて『シンクのお掃除無料サービス』しよう」ということになった。

こうして実施したキャンペーンの結果は大成功。値引きなしで、以前のキャンペーン並みの新規受注があった。また、新規受注の数字以上に驚いたことは、顧客からの反応だった。「キャンペーン中だったので、水道・流し台もきれいにしていただき、ありがとうございました」と感謝の声を幾つもいただいた。

同社社長は、「今回の一連の出来事を経て、自分たちで当たり前と思っていた気遣いを、きちんと伝えることで、キャンペーン特典になり、こんなに喜んでいただける。自分たちにとっての「当たり前」が、顧客にとってどれだけ価値があることなのかと改めて気づかされた」と振り返った。「まだ他にも、自分たちで『当たり前』にして、伝えられていない価値がたくさんあるだろう」と話す。

あなたの会社やお店のなかで、価値あるものでその価値が伝わっていない「当たり前」には何があるだろうか?

(小阪 裕司)

山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。