Home 食・旅・カルチャー 地球からの贈りもの~宝石物語~ 💎Vol.158 アニマル...

💎Vol.158 アニマルモチーフ〜地球からの贈りもの〜宝石物語〜

By 金子倫子

今年も無事に新年を迎えられたことに感謝。それと同時に、世界には穏やかに新年を迎えられない人々が多くいることも忘れてはならない。インフレや燃料費の高騰は確かに大きな負担だが、それが即生死に関わるものではない。日々命の心配をしなくてはいけない人に思いを馳せ、各々が自分には何ができるのか自問自答することも必要ではないか。

卯年の今年。飛び跳ねる兎から連想する、飛躍。または繁殖能力の高さから、子孫繁栄などが期待される年だそうだ。ピーター・ラビット、バッグス・バニー、そしてイースターもバニー。欧米の方が兎のキャラクターは馴染みがあるかも知れない。月の模様が兎に見えるのも確か日本と中国だけだが、日本で最も有名なのは、古事記に記される因幡の白兎だろうか。皮を剥がれたウサギに向かって、神様が「海水で体を洗えば治る」と言うところが、八百万の神の中には人格(神格)に問題ありの神もいる、というのが日本人的信仰心というか。何とも皮肉っぽい。

日本の固有種である二ホンノウサギは、地域によって冬季に毛衣が白くなるものの、基本的には茶色。それでも日本では兎=白というのが定番ではないだろうか。

兎がモチーフのジュエリーを探してみたが、カルティエのパンテール、ブルガリのセルペンティ、ヴァンクリーフのバタフライなど、シグネチャーとなるような物はない。確かに色や形を思い浮かべても特に特徴のある動物でもないし、お守りとして身に着ける程の神話や伝説もないのだろう。シグネチャーとなるような動物は多様なデザインに応用できるような柔軟性と、先にも述べた神話性など、その動物の息遣いを感じるぐらいの精巧性か、シンボル的にデフォルメされた物か。たとえばブルガリのセルペンティは、かなりデフォルメされた蛇の鱗が連なったシンプルな指輪から、しなやかな蛇腹のボディーに鱗ひとつひとつをびっしりと並べたような精巧な物とで、価格も15万円ぐらいから数百万円まで。そして値段があってないような、ハイエンドジュエリーの中のハイエンド、と呼ぶべき物もある。セルペンティのこの話はまた別の時にするとして、今回はミキモトの動物モチーフのハイジュエリーコレクションについて紹介しよう。

2022年の10月に販売開始された、「ワイルド&ワンダフル」という5大陸に生息する野生動物をモチーフにしたコレクションが圧巻である。全部で15から成るコレクション。その中でも私のおすすめはまずフラミンゴ。片足で立つその腹部はピンクのグラデーションのコンクパールで、体はこれまた紫から淡いピンクまでの多色のサファイアがパヴェ状に敷き詰められている。くちばしの先の黒のオニキスが、キリっと全体を引き締めている。それから草に掴まる蛙。体はグリーンのガーネットやペリドットなどのグラデーションに、ギョロっとした目はオニキスで淵は赤系のスピネルかルビー。そして掴まった葉から大粒のローズカットが雫を模している。

オウギバトの鶏冠はさまざまな形の青系のトルマリンやサファイヤ、アレキサンドライトなどで形作られ、所々にダイヤやパールが散りばめられている。ロジウム加工の黒いシャープなくちばしだが、スピネルと思われる赤い目は何となく物悲しく見える。これら3つはかなり精巧に各動物の表情を捉えている。そして最後はクジャクのイメージを豪奢なネックレスにしたもの。中央に黒蝶真珠が1粒鎮座する。そして中心に涙型のサファイヤ、アクアマリン、タンザナイトなどの青系の宝石が配置されたダイヤモンドと青系の宝石で縁取った涙型のフレームが、羽のように放射状にいくつも連なる。いずれのピースも、絶妙に配されたさまざまな宝石のグラデーションは圧巻である。

兎モチーフのジュエリーを見つけるのは難しいかもしれないが、お守り代わりに身に着ける、好きなアニマルモチーフのジュエリー探しに、今年、チャレンジしてみては如何だろうか。

金子倫子
80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。