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パンドラの英断、地球からの贈りもの〜宝石物語

筆者:金子倫子

どこもかしこもで叫ばれるようになったSDG。「持続可能な開発目標」の意味で、言葉ばかりが独り歩きしている感もあるが、ダイヤモンドもいよいよ本格的にその流れに乗ってきた。

ジュエラーのパンドラ社は、自社ジュエリーで使用するダイヤモンドを全て人工ダイヤモンドにすると発表した。近年、ダイヤモンド採掘がアフリカ諸国の内戦、鉱山での非人道的な労働、そして児童労働につながっていることが指摘されてきたことが背景にある。

「パンドラ・ブリリアンス」というシリーズで、現在はイギリスのみで販売しており、来年から世界中で販売予定。ジュエリーにカーボン・ニュートラルの証明書が付くということで、現在は製造過程の60%で再生エネルギーを使用しており、2022年には100%再生エネルギーにする目標を掲げている。2025年までには、ジュエリーに使用されるゴールドもシルバーも、全てリサイクルで賄う予定らしい。

これ程にも明確に目標を公表するのはリスクもあるだろうが、それだけ企業側の本気度がうかがえる。ただ、パンドラ社はダイヤモンドを前面に出しているジュエラーではない。もともと売上げの51%はブレスレットやペンダントのチャームが占めていて、ダイヤモンドが主軸ではない。同社収益のうち、ダイヤモンド販売からの利益がいくらなのかは分からないが、2020年の歳入は19ビリオン・デンマーククローネ(日本円で約3400億円)と決算報告書にある。世界有数のジュエラーであることは間違いなく、このような大手ジュエラーが先陣を切って人工ダイヤモンドしか使用しないと宣言することには大きな意義があるのだろう。

同連載でこれまで何度も書いてきたが、人工ダイヤモンドは偽物や模造品ではない。結晶構造も元素も正真正銘のダイヤモンドであり、違いは人の手によって整えられた環境で造られたということのみ。天然ダイヤモンドの最古のものは30億年前にできたと言われており、気の遠くなるような時間と温度と圧力と、偶然が重なってできたもの。人工ダイヤモンドはその環境を人工的に整えて、その工程を最短にして製造されるものだ。

養殖真珠と比較すると、分かりやすいかもしれない。御木本幸吉が「世界中の女性の首を真珠のネックレスで飾りたい」という夢を胸に真珠の養殖を成功させたからこそ、真珠が一般人にも手に入るものとなった。それまで真珠は天然か、または真珠に見せかけた偽物かの二択。そこに加えて、御木本によって「養殖」というカテゴリーが築き上げられた。ダイヤモンドも天然か偽物(ダイヤモンドのように見えるもの)かの二択だったのが、人工ダイヤモンドという3つ目のカテゴリーができたということだ。

養殖真珠と人工ダイヤモンドが大きく違うところは、真珠の場合は最終的に自然が養殖真珠を作り上げるところ。貝の中に人の手で核を入れるが、その後はその貝を海や湖に入れて自然に委ねるしかない。よって収穫間際に赤潮などで全滅などという事態もあるのだ。人工ダイヤモンドも種(シード)を機械に入れて、それを核にして結晶を育てていくところは似ているが、最後まで環境を制御できる。その点で、養殖真珠と違う。不確定要素は真珠よりも圧倒的に少なく、安定的な生産が可能。そして生産の安定は価格の安定に繋がる。現在は同じグレードの天然ダイヤモンドより、およそ30%ほど安い価格になっている人工ダイヤモンド。10年ぐらい前までは、カットした後に半カラット以上になる人工ダイヤモンドは稀だったし、黄味を帯びている品が多かった。しかし現在は、売買された最大の人工ダイヤモンドは15.32カラットのGカラー。技術の進歩は目覚ましく、天然ダイヤモンドと同じぐらい、品質の幅が増えるだろう。

何度も言うが、人工ダイヤモンドはダイヤモンドである。同じ強度を持ち、同じ輝きを放つ。天然ダイヤモンドが永遠の象徴なら、人工ダイヤモンドだって永遠なのだ。さて貴方はどっちを選ぶ?

金子倫子
80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。