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男性用婚約指輪〜地球からの贈りもの、宝石物語

筆者:金子倫子

一歩進んで二歩下がっているようなコロナとの闘い。日本では、今年のゴールデンウィークの人出は昨年とは比べ物にならないほど多かった。ワクチン接種に関してはアメリカに遠く及ばないし、オリンピックの行方が気になるところだ。

2030年までに達成すべき「持続可能な開発目標(SDGs)」に関する話題を色々な場で聞いたり目にしたりするようになった。環境、貧困、教育、社会的責任などについてなどの項目が全部で17つあり、そのうちの1つがジェンダー平等だ。ジェンダーとは、単純な性差ではなく「多義的な概念であり、性別に関する社会的規範と性差を指す」。この数年、ジュエリー業界においてもジェンダー平等が進んでおり、このコラムでも男性向けのパール・ネックレスが大々的に売り出されたことなどに触れてきた。マリリン・モンローが日本に新婚旅行に来た際にジョー・デマジオから送られたミキモトのネックレスや、グレース・ケリーがヒッチ・コックの名作「裏窓」で身に着けたチョーカータイプのネックレスなど、まさに女性の美しさの象徴であったようなジュエリー。しかし、それが、本格的に男性マーケットに参入している。

そんな時代の流れは婚約指輪にも訪れている。今月、ティファニー社が初の男性向けの婚約指輪を発表した。セッティングの名は創設者のチャールズ・ルイス・ティファニーから取った「チャールズ・ティファニーセッティング」。指輪の本体部分にダイヤモンドが埋め込まれているデザインだ。元来のティファニーセッティングといえば、6つの爪でダイヤモンドを持ち上げて横からも光が入ってより輝くデザインなのだが、同商品には爪がない。クラスリングやスーパーボールリングなどと大して変わらないと言えば変わらないのだが、大々的に「男性向け婚約指輪」として発表したところに意義があるのかもしれない。ウェブサイトで見る限りでは、一番小さいものでも1カラットから。簡単に購入できるような価格ではない。それを考えると、婚約の際に女性も男性にダイヤモンドの婚約指輪を贈りましょうというメッセージでもないのかもしれない。

エンゲージメント101マガジン(yourengagement101.com)というウェブサイトとそのSNSページでは、プロポーズの様子とその際のリングの写真が投稿されている。この数年で、女性が跪いて男性にリングを差し出す投稿も増えている。シンプルなバンドのリングもあれば、同じような宝石を男性用と自分用にルネサンス風の凝ったデザインにしたものなど様々な男性用婚約指輪が女性から差し出される。断られる可能性もある中でリングを差し出す女性の姿から感じる、逞しさと健気さ。同時に、受け入れる男性の懐の深さにも驚く。男の沽券などとは無縁に感じるからだ。

女性の権利を考える時に、女性も女性自身を縛るダブルスタンダードというのもの考えなければならないと思う。結婚は申し込まれるもの、婚約指輪は貰うもの(伝統的に結納返しというのはあるにしても)。そういった概念を女性がまず払拭しない限り、本当の意味でのジェンダー平等は訪れない。

20数年前、サッカー選手のデイビット・ベッカムの妻のヴィクトリアは、自身が贈られた3カラットのマーキースカットのダイヤモンドリングのお返しに、パヴェダイヤの太いリングを贈った。スパイスガールズのメンバーだったヴィクトリアに因んで「ガールパワー」と言われていた。

ガールパワー、コロナ後の世界を変えていかねば。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。