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特別レポート 留学生の目から見た シアトルのBLM運動

5月25日にミネソタ州ミネアポリスで警察の身柄拘束時に起きたアフリカ系米国人死亡事件の動画がSNSで世界中に拡散し、シアトルを含め抗議デモが頻発。破壊、略奪、暴動が起こり、一時的に夜間外出禁止令発動までに至ったシアトルでは、キャピトルヒル周辺6ブロックが警察を排除した自治区になるなど混乱が続いた。シアトル・セントラル・カレッジ留学生でもあるソイソース記者インターンが、BLM運動についてさまざまな立場からの声を集めた。

(取材・文・写真=中山 栞)

BLMとは?

「BLM(Back Lives Matter)」は、2021年にフロリダ州サンフォードで起きたトレイボン・マーティンさん死亡事件を機に生まれたスローガン。17歳のトレイボンさんがコンビニでの買い物から帰る途中、自警団を名乗る男と口論になり射殺された。しかし、加害者は自己防衛が認められて無罪に。加害者の白人に有利な判決について、まるで被害者の黒人の命は大して重要ではないように扱われていると抗議の声が上がり、3人の女性が「#BlackLivesMatter」のハッシュタグを使うようになったのが始まり。本来は「私たちは同様に生きる価値がある」という意味合いで使われていたが、今では人種に関係なく、アフリカ系米国人のために行動を起こすときに使用される傾向がある。

 

みんなはBLM運動についてどう思っている?気になる本音をインタビュー!

抗議デモに参加したフィリピン出身のシアトル・セントラル・カレッジ留学生 E・Dさん

―抗議デモに参加したのはどうして?

ひとりの活動家として、抗議デモに参加するのは当然だと思ったし、これはアフリカ系米国人コミュニティーだけの問題ではなく、私たち自身も戦うべきこと。個人的に彼らのコニュニティーとのつながりを感じていて、以前一緒に生活したことがあるし、大切な家族もいる。彼らを守っていきたいと強く感じていることが、今回行動したいちばんの理由かな。警察との根深い問題を終わらせる必要性を感じるわ。

―BLM運動に関わる組織に入っているの?

特定の組織に属してはいないの。抗議デモは誰でも気軽に参加できるものだから、組織は関係なく、自分の気持ち次第。ただ、興味はあるから、BLM運動を支える団体や組織については知っているよ。

―実際に参加してどうだった?

正直、暴力的な抗議デモについては、アフリカ系米国人コミュニティーを思うと胸が痛い。実際に、ベルビュー・スクエア周辺で略奪や破壊を目にしたので、その光景は今でも忘れられない。私の場合、よりいっそう彼らのコミュニティーのために戦っていきたいというエネルギーに変わった。

 

興味はあったが試験期間中で抗議デモに参加しなかったワシントン大学に通う大学生 N・Wさん

今回の抗議デモ一連の報道を通して、警察の正義の捉え方に不信感を抱きました。警察は人を更生させ、社会復帰をサポートするのが任務。人種に関わらず、人の命を危険にさらしてはいけない。自宅に突然押し入った警察の勘違いによる発砲で寝ていた恋人の命を奪われた男性もいる。この事件を思うと今でもつらい。

コロナ禍で帰国できずにいる中国出身のワシントン大学留学生 Y・Sさん

抗議デモ自体は、彼らが声を上げる場となり、アフリカ系米国人コミュニティーのために結束力を高める、とても意味のあるものだと思う。ただ、その思いを利用し、関係のない人たちが店に押し入り、略奪し、意味もなく街を破壊すること、平和的なデモを乗っ取ることは許せない。

アフリカ系米国人で異文化理解のための授業を行うシアトル・セントラル・カレッジ人文学部教授 A・Hさん

社会制度の圧力を終わらせるしか解決策はない。教育者として、世界がどうしてこのような体制になったか、その根本はどこにあるのか、学生が理解できるように最善を尽くしている。授業だけにとどまるのではなく、コミュニティーの中でも同様に取り組む必要がある。私たちがすべきことは、少しでも今の状態から前進できるように、マイノリティー・コミュニティーを率いて行動することだと思う。

BLM運動を支援するために私ができること

シアトル・セントラル・カレッジ学長は学生たちに次のようなメッセージを送った。
「アフリカ系米国人への暴力に対し、学生ひとりひとりが意識を高めることが、終止符を打つための取り組みのひとつになる。正義と平等の実現に向け、全員が一丸となって、この根深い暴力を止めるべく一翼を担って欲しい」
アメリカに来るまで、人種差別は過去の話だと思っていた。同じ感覚を持つ日本人は少なくないかもしれない。しかし、そんな自分の考えはとても浅はかであることを目の当たりにした。根深い差別が今も続いており、報道されるケースは一部に過ぎず、最近になってSNSにより警察の闇がようやく明るみになったことを知った。
ジョージ・フロイドさんの死後、人種差別に関する本が売れたり、辞書に載る人種差別の定義が変わったりと、少しずつ前進しているように感じる。3月13日にケンタッキー州ルイビルで起きたブレオナ・テイラーさん事件も、今になって報道で大きく取り上げられるようになった。この事件の概要を知った時は言葉を失った。就寝中に警察が押し入り、発砲を受けた無実の女性が命を落としながら、発砲した警官は逮捕されていない。社会制度が人の命の価値を判断している現実を突き付けられる。
今、この問題について考えないまま日本に帰ってはいけない気がした。彼らを支えるため、自分には何ができるだろうか。何をしたら良いかわからない人のために、さまざまなサポート方法が紹介されている日本語サイト(https://blmjapan.carrd.co)を見つけた。BLM運動を支援する団体へ個人で寄付することもできる。8ドルから気軽に署名活動が可能とわかり、筆者もブレオナ・テイラーさんの署名活動をしてみた。1回限りでも毎月でも、寄付の回数を選べる。たとえ小額でも今回だけでなく永続的に自分のメッセージを発信することに意義を感じた。
日本人は人種差別への意識が低いと言われる。帰国すれば、おそらく自分も多数派として暮らすうちに意識が薄れていくようになるのだと思う。ただ、毎月8ドルを寄付することで、今の気持ちを思い出すことができれば、人種差別への意識を保てるのではないか。私にできるのは、彼らと関係を持ち続けることだと考えている。

シアトルで起こったBLM運動関連の動き

 5月29日(金) 警察拘束中にジョージ・フロイドさんが死亡した事件の発生を受けて抗議の声が上がり、警察改革を求めてシアトル、ベルビューなどでもデモが始まる。週明けに、一部暴徒化したデモ隊により破壊された街をボランティアが清掃して回った。

 5月30日(土) シアトルで夜間外出禁止令が発動。以降、各地で約1週間にわたり外出禁止令が出される。

 6月1日(月) キャピトルヒルで警察とデモ隊が衝突。警察が催涙スプレーを使用し、デモ隊が傘で避けるなど攻防が続いた。

 6月5日(金) ジェニー・ダーカン市長が警察の30日間の催涙スプレー禁止を発表。翌日から警察は護身用の唐辛子スプレーなどで代用。

 6月8日(月) キャピトルヒルで警察不在の自治区としてCHAZ(後CHOPに改称)というコミュニティーが出現。フードコートや医療センターも設置される。

 6月9日(火) ダーカン市長辞任を求め数百人のデモ隊が一時的にシアトル市役所を占拠。

 6月12日(金) 6万人規模の抗議集会がビーコンヒルで平和的に開催される。マスク、ソーシャル・ディスタンシングなど衛生対策も取られた。

 6月20日(土)~23(火) CHOP付近で4件の発砲事件発生。19歳の少年が死亡。CHOPから大半のデモ隊退去。

 6月29日(月)~7月1日(水) CHOP内で発砲により16歳の少年が死亡。残りのデモ隊も警察により強制排除、一部逮捕された。