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第45回 このちょっとした盲点に気づけるか

ほんのちょっとした盲点が、売れるはずの商品を売り逃していることに気づくお話。

あるワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の美容院から、次のようなご報告をいただいた。同店で売っているシャンプー剤は、頭を洗うだけでなく、入浴剤代わりにお風呂に入れることで、皮膚からデトッ
クスできるという優れもの。これを来店客に訴求しようと、鏡の横に、写真入りで詳しく表示した。

結果、お客さんの反応は上々。しかし買ってくれる人がいない。何が足りないのかと考えてみると、そこに商品の現物を置いていないことに気がついた。そこですぐに現物を置き、プライスカードを付けたところ、いきなり買う人が増えたのだった。

同じような話は少なくない。もうひとつは、餡のメーカーが製造したお菓子の、催事販売でのお話だ。売り場に、取扱商品の人気ランキングを貼り出してみた。目的は、関心を引き、売り場に足を
止め、最終的には買ってもらうためだ。ちなみに1位は「あんドーナツ」、2位は「テディベアもなか」。

このように貼り出すと、もくろみ通り、売り場に足を止めて見てくれる人は増えた。しかし、買うに
は至らない。ではどう改善すべきかと考え、気づいたことは、ランキング表の間近に当の商品がないことだ(売り場には並んでいるが)。それではと、あんドーナツはランキング表の横に、テディベアもなかは前に置き、さらにそれぞれに矢印の表示物を作り、「人気No.1」「人気No.2」として、ランキング表から視線が自然に商品に至るようにもしつらえた。そうしたところ、購入者は大きく増加したのだった。

今お伝えした美容院の例も、お菓子の催事販売の例も、盲点は、商品に関心を持ってもらうための表示物の間近に現物商品がないことだ。なくても店員に聞けばよいし、お菓子の場合などは売り場を探せばよいのだが、残念ながらお客さんはそうしない。その代わりに買うのをやめてしまうのである。

お客さんの「買う」という行動は、ちょっとしたことで生み出せもするが、ちょっとしたことでやめられもする。そんなとき、その原因を正しく見て、適切な改善を行うことが大切だが、このような場合、しばしば原因を、商品そのものや価格など誤った方へ見てしまいがちだ。「この商品、人気ないね」「高いから売れないのだろう」というように。ちなみに先のシャンプーは250㎖入りでお値段は4,000円弱とやや高価。これなどは誤りやすい典型だが、先の美容院はワクワク系の取り組みが長いゆえ、正確に物事を見ることができている。それができることで、売れるはずの商品を売り逃してしまうことは、着実になくなっていくのである。

(小阪裕司)

山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。