By 金子倫子
金とプラチナ
ハマスによる奇襲攻撃から始まったイスラエルとの新たな紛争によって、世界の注目がウクライナ侵略からシフトしてしまった気がする。新しい1年を迎える前に、命の心配をせず暖かい寝床と食事があることは、決して当たり前ではなく、とても幸せな事なのだと、改めて噛み締めたいと思う。
前回も取り上げた「金」。世界情勢が不安定だと人は貴金属を求め、需要が上がると値も上がる。英国に本社を置く、ワールド・ゴールド・カウンシルという団体が、英俳優のイドリス・エルバ氏をナビゲーターとして起用して、金にまつわるドキュメンタリーを作成。その中で、英国の中央銀行には40万個、約2500億英ポンド相当の金塊が保管されていると伝えている。同銀行は世界で2番目に多くの金を保管しており、さまざまな国が非常事態時のために預けているそうで、世界の約30%の金はこの様に保管庫で眠っているとのこと。
前述の団体によると、2023年の第1四半期は、各国の中央銀行における金の購入が歴代1位で、合計228トンの金が購入されたと報告。内、シンガポールが69トン増、中国は58トン増、そしてトルコも30トン増。世界各国が情勢不安を重く受け止めている証拠だろう。
それにしても、どうして金でなければならないのか? そもそも日本では長い間プラチナの方が貴重だとされていたのではないか。実際、過去約40年の相場価格を見ても、プラチナの方が高かった時代が長い。世界情勢が不安定な時期として、たとえば911のテロが起きた2001年は、金271㌦に対してプラチナ530㌦、翌年は309㌦に対して541㌦。リーマンショックの2008年は金872㌦に対しプラチナ1304㌦、その翌年は973㌦に対して1573㌦と、この2つのイベント時にはプラチナは金の約1.5倍の値がついていた。
それが何と、2016年には逆転し、金の価格がプラチナを越えた。そしてこの数年は金の方がプラチナの約2倍と立場が真逆になってしまったのだ。2022年のプラチナ相場は2005年の時とほぼ同じだが、金相場は2005年当時の約4倍となっている。リーマンショック以降の金の高騰は今年も継続中だ。
何がきっかけだったのか、日本はプラチナ信仰が強かったので、この逆転と約2倍の差はちょっと切ない。ただ、結婚指輪=プラチナのバンドが一般的だった日本を出て渡米した時は、金の結婚指輪やダイヤモンドの指輪にも金が使用されていて、カルチャーショックを受けた。それを考えると、プラチナ信仰は世界でも少数派だったのだろう。
金が2倍というのは、ジュエリーにどう反映されているのだろう。一流ブランドでもプラチナジュエリーは少なく、比較対象を探すのに少し苦労した。ミキモトの同じデザインのバンド型のリングは、何とプラチナも18金も20万9千円と同額。更に驚くのはカルティエのラブリング。5.5ミリ幅で同サイズ、18金の方が30万円弱に対して、プラチナは何と60万円強。プラチナの配合は950/1000とあったので、95~100%配合を意味する。18金は75%が純金の割合なので、もし純金だとしても40万円程。いずれにしろ、プラチナが割高には変わりない。
例に挙げたジュエラーのプラチナは割高だが、地金、コイン、喜平のチェーンなどはもっと市場価格を反映しているので、プラチナの方が安くなっている。資産として考えるのであれば、これらの購入も良いだろう。金がハイテク、医療などの分野で使われているのは前回紹介した。実はプラチナも同様で、たとえば、私が通訳として2年程携わった燃料電池は触媒にプラチナを使用する。プラチナも開発・研究に必須であり、希少性を考えても株の様にいきなり価値が地に落ちる事はない。まして何十年かのサイクルで物事は万事繰り返すことを考えれば、そのうち再び金の価格を越え、倍の値が付くこともありうるかも?
人としての本質を試されているようなこの数年。不安要素は増え続けるが、感謝と希望とを胸に日々を大切に過ごしたい。
皆さま良いお年をお迎えください。