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第44回 AIの時代に

AIの時代、人は何をやるべきか。この深遠な問いへの答えはそう簡単には出ないが、その答えの一端が垣間見える、ささやかかつ重要なエピソードを今日は紹介しよう。

先日、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)の会員企業、インテリアや雑貨、寝具のお店の店主から、自店の仕入れについてのご報告をいただいた。店主は、東京ビッグサイトなどの大型展示ホールで開催される大きな展示会にしばしば足を運ぶ。目的は仕入れだが、今回、ワクワク系を始める前に行ったときとの大きな違いに驚いたという。

違っていたのは何か。それは展示ブースの内容ではなく、自身の視点だ。具体的には今回、様々な展示ブースを見ては、「これはウチのお客さんが喜ぶなあ」「これはアノ人に伝えたい」「ウチの店でこれを置いて、こう見せたら皆で盛り上がれる」などの妄想がどんどん出てきて、まったく時間が足りなかった。例年は1日で済んでいたが、今回は2日間、しかも2日目は朝から昼食抜きでぎりぎりまでいたのだが、それでも足りなかった。

それまでは展示ブースに行くと、「どれが売れ筋ですか?」「どれが売れてますか?」ばかりを聞いていた、かつては「売れる商品」を探しに行っていたのだと、店主は言う。それが今回は、この商品を紹介したらお客さんに喜んでもらえるのではないか、この商品を提案して使ってもらったらお客さんの信頼を得られるのではないか、そういう視点になっていた。

そして象徴的だったことは、持ち帰る資料の量だ。これまでは、各ブースでもらうカタログなどの資料が持ち帰れないほどになり、宅急便で送っていた。しかし今回、結果的に、片手でもって帰れるくらいの資料しかもらわなかった。それでも例年より新規取引先も増えた。以前は「売れ筋」と言われた商品のカタログを大量にもらってきて、それで安心していたのだろうと店主は振り返る。そして彼は今、今後の顧客への展開に胸を膨らませている。

話は変わるが、某大手の動画配信企業では、AIが利用者の利用データから個々の嗜好をキャッチし、次に見るべき商品を個別に推奨する。ちなみに「個別」なのは商品(映画やドラマなど)のチョイスだけでなく、その商品のどのシーンをサンプルで見せるか、それも個々の嗜好に基づいて「個別」だ。これらのきめ細かさにより、推奨された商品が実際に観られる率は、実に75%にのぼるという。そんな時代に、「どれが売れ筋ですか?」の仕入れ思考では、人の出番はない。では人は、何をどう考えられ、行えるようになるべきか。その答えの一端が、今回のエピソードの中に垣間見えはしないだろうか?

山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。