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渋谷 1

「渋谷駅」

青山道りを西進すると渋谷駅に着く。駅を中心に何本もの通りが放射状に伸びていて、通りが交差する場所がスクランブル交差点になっている。アメリカのテレビで東京の一光景としてスクリーンに映しだされるのはこの場である。「世界一忙しい交差点」と呼ばれるこの渋谷駅前交差点は、今では世界から観光客が集まる東京の名所だ。
渋谷駅前は、新宿と同じ、あるいはそれ以上に、いつ行っても人であふれかえっている。飲食店をはじめ数えきれない店舗のほとんどはビルの中の小さなスペースに収まっている。駅前のスターバックスは、狭いスペースながら世界一の売り上げだと聞いた。事実、入ってみるとドアの外で待っている人が何人もいた。渋谷はなによりも消費のメッカなのである。
渋谷駅にはJRと地下鉄のほかに、郊外へ延びる東横線と井之頭線の私鉄二本が乗り入れている。郊外に住む人はここを通って都内のあちこちへ、仕事や遊びのために移動するのだ。だからだろうか、渋谷駅前を待ち合わせの場に選ぶ人が少なくない。なかでも「ハチ公前」の待ち合わせは定番で、「ハチ公口」という駅の出口さえある。犬のハチ公銅像はさほど大きくはないが、いつでも人だかりがあるのですぐに見つけられる。
駅から伸びている数本の道はいずれもゆるやかな坂だ。渋谷駅に降りたら、どこへ行くにも坂の名前を覚えておけば困らない。道玄坂は南東の方向へ、宮益坂は東へ伸び青山通りに合流する。その他にもセンター街や文化村通りなど、通りはいくつもある。

「文化村から松涛」

渋谷には文化村という名の場所があり、博物館や映画館、コンサートホールなどがある。すぐ南に円山町というラブホテル街もある。昔の渋谷を知る人にはなつかしい「恋文横丁」は今はない。戦後しばらくのあいだ駅近くの大通りをひとつを入った路地にあった横丁だ。占領下の東京は米兵であふれ、その相手をするバーの女たちがいた。男の気を引き留めて置くためのラブレターが必要だったが、その女たちは英語が書けるわけではない。恋文を代筆する商売がここにあった。
文化村の北西側には松涛という高級住宅地がある。ここまで来るとさすがに静かで緑もおおい住宅街になる。小ぶりだが松涛美術館、戸栗美術館観、世流能楽堂などもある。大都会好きの人間が住むには便利でいい場所だが都内でも有数の一等地、誰でも住めるわけではない。
(田中 幸子)