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第75回 捨てられた子猫を保護したら〜招客招福の法則

筆者:小阪裕司

今日は、捨てられた子猫を保護したら、多くのお客さんとの絆が深まる結果となったお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のあるレストランからの報告だ。

あるとき、店主の奥様の実家から、家の敷地内に猫が置き去りにされたとの連絡が入った。たまたまその2日前に、飼っていた愛犬の葬儀をすませたばかり。すぐまた動物は飼えないし、猫は飼ったこともない。自分では飼えないと考え、店のフェイスブックで里親募集をしてみたが、日が経っても里親は見つからない。結果、「これも亡くなった愛犬が導いてくれた縁ではないか」と思い、引き取ることにした。

動物病院で見てもらうと、生まれて2週間くらいの子猫とのこと。その愛らしい三毛猫は、店主の娘さんによって「風羽(ふわ)」と名付けられ、それから毎日、店のフェイスブックやLINE、インスタグラムで、風羽の成長記録をアップしていった。

すると思いがけないことが起こってきた。来店するお客さんから「風羽ちゃん、可愛いですね」「風羽ちゃん元気?」など声をかけられることが多くなり、それがきっかけとなってお客さんとの対話が増えてきた。あるとき「風羽のおなかがゆるくて」とアップしたところ、車で1時間半はかかるところに住んでいるお客さんが、キャットフードとおもちゃを差し入れに持ってきて、いろいろアドバイスをしてくれるようなこともあった。その後もアップを続けていると、メッセージやコメントはさらに増え、「風羽ちゃんに会いたい」という要望も多く聞かれるようになった。

しかし、レストランの店舗内に置いておくわけにもいかない。そこで考えたのが「風羽ギャラリー」だ。店内に風羽の写真をたくさん貼ったボードを取り付けてコーナーを作ってみると、さらにお客さんの反応が。横にインスタのQRコードを貼り、登録しやすいようにしておくと、こちらも反応は上々。そこでさらに新しいアカウントを作成、「風羽クラブ」と名付けて始めると登録者はどんどん増え、今日に至るのである。

昨今のお客さんは心温まることやつながりを求めている。ワクワク系ではその考えに基づき様々なことを行って、お客さんとの絆を育み、顧客コミュニティを育成しているが、この例もそのひとつの形だ。今回の一連のエピソードからは、店主の人柄がしのばれる。それらがこの店のファンを増やすことにつながり、安定した経営の基盤を創り上げていくことになるのである。

小阪 裕司
山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。