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不法移民問題を考える 国境、押し寄せる人々 どのように向き合うのか

5カ月後に迫った大統領選挙の争点の1つとなっている不法移民問題。調査機関ピューリサーチセンターによると、米国に滞在する不法移民は1130万人(2014年)。国内人口の3・5%、労働市場の5.1%を占める。不法移民を取り巻き様々な議論が行われているが、当事者たちは何を思っているのか。 不法移民の現状や、同問題に詳しい団体の活動を追った。

世界でも有数の経済格差を抱えた国境

今年3月、メキシコ国境の町ティフアナを訪れた。サンディエゴ国際空港から車で 40 分ほどの距離にあるこの町は、現在、米国に渡る不法移民の「窓口」として悪名高い。「メキシコでは、米国との国境に近づくにつれて治安が悪くなる。米国へ渡ろうとする不法移民で溢れかえっている」と語るのは、ティフアナで観光客向けの出店を営む女性だ。メキシコからの不法移民は、米国内不法移民全体の約半数を占めている。理由の一つが、両国が抱える経済格差で、国内総生産額を比較すると、米国5万4629㌦に対し、メキシコは1万325㌦。両国間の国境は、世界でも特に大きな経済格差を抱えている国境と言われている。貧しい暮らしから脱し、より良い雇用や教育の機会を得ようと、米国に渡ろうとする不法移民は後を絶たない。

命がけでアメリカを目指す不法移民たち

ティフアナ滞在中、「これまで10 回、メキシコから砂漠を越えて米国へ不法入国した」と語るメキシコ人男性に出会った。

「Casa del Migrante 」という、 米国から強制退国させられた不法移民が滞在する施設で一 時的に生活している。ここでは準備をする時間も与えられないままメキシコに送られた不法移民たちに、ベッドやシャワー、インターネットなどを一時的に提供している。

彼が米国に不法移民として入国したのは 21年前。これまで 10 回不法入国が発覚し、その都度メキシコに強制送還されている。「2歳と10 歳の息子と妻がカリフォルニアにいる」 と語る彼は、11 回目 の国境越えの準備をするために施設に滞在しているという。

メキシコからの不法入国者の多くは、国境の砂漠や川を渡って米国を目指す。気候が厳しく道にも迷いやすい砂漠からの国境越えは命の危険を伴い、実際に国境付近の砂漠では昨年240人の遺体が国境警備隊によって発見された。

「国境警備隊から逃れるために、走らなければいけない時が一番辛かった。水や食料がすぐに尽きてしまうのも辛い」と語る男性は、家族との再会とより良い仕事を求めて、また国境を越える。

5月にワ大で講演するホンさん

ワ州の不法移民

「不法移民は私たちにとって身近な問 題」――。そう語るのは当地非営利団体で、不法移民への仕事紹介や職業訓練、英語教育などを行う非営利団体「カサ・ラティーナ」のマルコス・マルティネス事務局長だ。

普段の生活で不法移民を目にする機会は少ないかもしれないが、「ホテルやレストラン、農業は不法移民によって支えられている。特に農業が盛んなワシントン州にとって、不法移民は重要な存在」と語る。

不法移民がワ州にやってくる理由についてマルティネス事務局長は、自国での貧困、ドメスティック・バイオレンスなどの理由、「必要性があるから」と語る。 ビザは制限され、取得には何年も待たなければならない上、取得できる保証もない。米国では家族を養うためにいくつもの仕事を掛け持ちする場合も少なくないという。

「不法移民は、多くの選択肢を持っていない」とマルティネス事務局長は語った。

アジア系不法移民の存在

不法移民はメキシコ系だけではない。 ワ州に滞在する不法移民の 26 %が、インドや韓国、中国などから来たアジア系移民という。

アジア系不法移民にまつわるストーリーは様々だ。5月12 日にワシントン大学で講演したサンフランシスコ州立大学院生で活動家のジュ・ホンさんは、11 歳の時に母と姉と韓国から米国に渡った。

自身が不法移民だと知ったのは高校3年生の時。大学受験の申請書に記入するため自身のソーシャルセキュリティナンバーを母に聞いた際、家族が不法移民であることを告げられた。

その後、ホンさんは非営利団体からの援助や、16 歳以下で不法移民として渡米した若者などに就労許可などを与える政府からの救済策DACA政策などの援助を受け、カリフォル ニア大学バークレー 校を卒業した。

ホンさんは、「母と姉は今もまだ、不法移民として貧しい生活を送っています」と話した。「不法移民問題はヒスパ ニックだけの問題ではない。どのコミュ ニティーにも接する問題です」

若者や不法移民のケアに携わる団体 21Progressのプログラム・ディレク ターで不法移民問題に詳しいマリッサ・ ヴィチャヤパイさんは、「様々な理由で不法移民になるのに、アジア系不法移民はその種の話をしたがらない。アジア系不法移民に特化したコミュニティー組織が必要」と語る。

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取材を通じて、貧しい環境を抜け出し、いつかより良い生活を送ることを目指して米国にやってくる不法移民たちの姿が見えた。移民の国である米国と他国との経済格差。不法移民は確かに重罪だが、強制送還も国境に壁を建てることも、問題の根本的 解決にはならないだ ろう。大統領選挙を前に議論される次期大統領の移民政策から目が離せない。

(記事・写真=遠藤 美波)

北米報知は、ワシントン州シアトルで英語及び日本語で地元シアトルの時事ニュースや日系コミュニティーの話題を発信する新聞。1902年に創刊した「北米時事 (North American Times)」を前身とし、第二次世界大戦後に強制収容から引き上げた日系アメリカ人によって「北米報知(North American Post)」として再刊された。現存する邦字新聞として北米最古の歴史を誇る。1950年以前の記事は、ワシントン大学と北米報知財団との共同プロジェクトからデジタル化され、デジタル・アーカイブとして閲覧が可能(https://content.lib.washington.edu/nikkeiweb/index.html)。