Home コラム 一石 「ニューノーマル」の中で

「ニューノーマル」の中で

筆者の自宅壁に毎日の記念日が記されたカレンダーが貼られている。ユニークなものが多く、こうした記念日に合わせて過ごすことも楽しみの一つになっている。今週を見ると、19日の日曜日は「自転車の日」だった。23日の木曜日は「ピクニックの日」という。現状を考えれば、自宅で工夫を凝らさなければならない。

こうした日々が「ニューノーマル」となって久しい。

例年であれば地元コミュニティーではシアトル桜祭・日本文化祭が開催される。今週に予定されていた恒例行事は中止となったが、ウェブサイトによると、ライブストリーミングが24日から3日間予定されておりプログラムも紹介されている。

新型コロナウイルスの感染拡大で地元学校は休校となった。まもなく迎える卒業式シーズンは、あるいは留学生たちのビザはどうなるのだろうか、といった思いを巡らせた。先の状況は読めず、1年の延期が決まった東京五輪も無事に開催されることをただ願うばかり。東京五輪は1940年大会を日中戦争で返上したことがある。その数年後、第二次世界大戦下にあった当地も「ノーマル」でなかったことが頭に浮かんだ。

前年の日米開戦を受けた1942年、西海岸からの日系人退去へとつながる大統領令9066号が施行された。3月末のベインブリッジ島を始まりとし、シアトルもまた4月末から5月にピュアラップの収容所へと日系人が移送された。

卒業を迎える大半の日系学生も多い。「一生に一度」の瞬間となる式典が収容所内で行われた。ピュアラップに近い高校では、その日だけ卒業生が収容所から出ることを許されたという。収容先に卒業証書が送られることもあれば、手元に届かなかったケースもあったとの記事も見たことがある。10年ほど前、強制退去を受けて高校や大学を去った関係者に地元高校や大学から卒業証書や名誉学位が送られる行事が続いたことを思い出した。

新型コロナウイルスの蔓延を受けてアジア系住民への差別行為を憂慮するニュースを目にした。まもなく迎える5月はアジア太平洋系ヘリテージ月間。「ニューノーマル」の中でも、偏見なき社会へ正しい意識を持ち続けたい。

(佐々木 志峰)

オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。