Home コラム 一石 ありがたい境遇〜一石

ありがたい境遇〜一石

8月。日本は猛暑だという。気候においてシアトルはベストシーズン。米国の大都市圏を拠点とする同業者から、移住先の候補として当地の生活について質問を受けることもある。

出張を重ねながら平和のありがたさも実感する。シアトル市内グリーンレイクでは6日、恒例の平和イベント「From Hiroshima to Hope」が催され、湖にメッセージを込めた多数の灯篭が浮かんだ。

灯篭流しのイベントは1984年から行われているという。始まりとなる、広島・長崎の原爆投下から78年が経つ。「原爆の父」と呼ばれ原爆製造のマンハッタン計画でリーダーを任された科学者ロバート・オッペンハイマーの伝記映画「オッペンハイマー」も上映されており、平和と命の重みを深く考えさせられるひと月でもある。

ワシントン州は同計画とも関係が深く、州中部から南にあるハンフォード・サイトは長崎へ投下されたプルトニウムが生産された。編集部時代の2015年に国立歴史公園へ指定されたことを思い出す。歴史的にも重要な場所。同跡地に隣接するリッチランドでは9日、長崎原爆の犠牲者へ慰霊祭が行われたという。

ロシアのウクライナ侵攻で止むことのない軍事衝突が続く。世界を見渡せば、そのほかでも争いが発生していることが報じられている。ニュースの中には「核」という言葉も見かける。そして日本の戦争体験に関する記事。決して目を背けてはいけないという思いで読み通す。

夏の休暇シーズン。他州であった仕事現場の上空を、大きな音を発しながら戦闘機が飛んでいった。皆が見上げて動きを追う。当地では7月のMLBオールスター戦。試合開始前の国歌斉唱とともにTモバイル・パークを通過する飛行隊。スマートフォンのカメラを手に動きを追う観客。8月上旬のブルーエンジェルスのエアショーも盛況だった。

当たり前のように平和を享受する日々。一方でこの音とともに命の危険にさらされ、死と隣り合わせの生活を続ける人々もいる。8月。毎年と変わらず、自身の境遇のありがたさを再認識している。

オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。