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Vol.160 史上初のパフォーマーズ〜地球からの贈りもの〜宝石物語〜

By 金子倫子

史上初のパフォーマーズ

毎年話題になる、スーパーボールのハーフタイムショー。ハーフタイムショーに出演するようなパフォーマーは、何万人も収容する会場で観客を魅了するコンサートを何度も経験している方々なわけだが、それでも演出やパフォーマンスは圧巻であった。

フォーブス誌によれば資産1.4ビリオン㌦のリアナは、ハーフタイムショーに出演した史上初のビリオネアとのこと。出演後にビリオネアとなった人は居るが、現役としては初らしい。更に、宙に浮かぶ舞台に乗った登場で、十分目立つ程に大きくなったお腹に手を当て、第2子の妊娠をお披露目。それにしても空中舞台の吊られた高さの高いこと。妊婦でなくとも単純に安全性が気になるが、トレーンと呼べる程丈の長いコートの内側では、プラットフォームから腰のハーネスが繋がれていた。ショーの始まりはうつむいたリアナの顔のアップから。輝いた耳元のイヤリングやイヤーカフは、メシカの物。2005年にフランスで誕生したメシカは、元々ダイヤモンド商であったアンドレ・メシカの娘ヴァレリがクリエイティブ・ディレクターとして始めたジュエラー。ラッキームーブと呼ばれる、金属に挟まれた覆輪止めのダイヤモンドがスライドするアイコン的デザインで知られる。身に着ける人に合わせて動きつつ光を放つ遊んだ感じは、軽やかで華やかだ。写真で見る限りではこのデザインではない様だが、イヤーカフも涙型の大粒のダイヤモンドが使用されているものや、連なったダイヤが耳元から下に流れるような物など。多様なデザインが非対称的に耳を飾っていた。

舞台に乗って宙に浮いている時は、安全面での規制なのか防寒なのか手袋をしており、手元が全く出ていない。しかし空中舞台から会場のステージに移り、多くのダンサーに囲まれてのパフォーマンス時は手袋をしておらず、手元がはっきり見えた。まず目を引くのは、右手薬指を彩るベイコというブランドの大粒のルビーの指輪。ブランドのインスタグラムによれば、19・47カラットのルビーはシュガーローフカット。両側にひとつずつトリリアントカットのダイヤモンドが配され、全体をグルっとラウンドブリリアントのダイヤモンドが囲むデザイン。衣装の赤にルビーの赤、それに加えてカラーコーディネートされたジェイコブ&Co.のブリリアント・スケルトン・ノーザンライトと呼ばれる時計。時計のフェイスは真っ赤だが、スケルトンの名称に違わず、中のメカ部分が透けて見え、全周を251個合計5・16カラットの小さなダイヤモンドが敷き詰められている。GQ誌によれば、この時計は限定101個の生産で小売価格7万2千㌦だそうだ。

パフォーマンスの途中で、リアナをビリオネアの地位に押し上げた、自身のブランドである「フェンティ」のコスメで化粧直しする場面も挿入。ビジネスパーソンとしてもぬかりない。初のビリオネアで妊婦という、ひとつの歴史を作ったリアナだったが、ここで大きな誤算が。それが、こちらも史上初、ハーフタイムショーを手話で通訳したジャスティナ・マイルズの存在とその圧巻のパフォーマンス。彼女は英語で言うところのデフなので、日本語だと聴覚障害者というのが的確な表現だろうか。インタビューでは言葉も発していたし、完全に聞こえないというわけではないそうだ。長いネイルの付いた手は、夜に舞う蝶の様でもあり、歌詞に合わせてグッと握られた手にはスピリットが宿ったような強さを見た。手話と言う物があんなに雄弁に語り、あれ程までに美しいものだとは。目が離せないというのはこういう事だというのを再確認させられたパフォーマンス。どちらのパフォーマンスの方が響いたかと言えば、私の中では明確に答えが出ている。

いずれにしろ、史上初を成し遂げた二人の女性パフォーマー。暗いニュースばかりの中、何だか一筋の希望の光の様で、画面越しでもこんなに感じるエネルギーにただただ感動するばかりなのだ。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。