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グリーン・ ウィズ・ エンヴィー〜地球からの贈りもの、宝石物語

日本人にとって、春は始まりと同時に終わりの季節でもあるが、私にも出会いと別れが。このコラム掲載にあたり、長い間担当してくださった方から新しい担当者にバトンタッチ。心新たに、締め切り厳守を目標に頑張っていきたい。

さて、遂に来た。個人的にはもう来ないのでは? とも思っていた、ジェニファー・ロペスとベン・アフレックの20年弱の月日を越えた再婚約のニュース。1度目のエンゲージメント・リングは、6.1カラットの推定2億円のピンクダイヤモンド。それまでのダイヤモンド=透明という一般常識をひっくり返すインパクトだった。カラーダイヤモンドの市場価値が上がっていったのも、このピンクダイヤモンドが一役買っていると言っても過言では無いだろう。

こうなると、2度目の婚約指輪はこれ以上のインパクトが期待される。1度目の破局を知る世代、特に多くの女性は、2度目のプロポーズとはどんなものだろう? と傍観者である事を忘れてこのときを待っていたのだから。ベンの出した答えは緑。まさにグリーン・ ウィズ・ エンヴィー。

最も希少性の高いダイヤモンドの色は、赤と緑。ザ・クリスマスカラーだ。赤に関しては、どうして赤い色味になるのか明確に解明されていない。一方緑になる要因として、最も一般的に知られるのは自然の放射線によるものだ。原子構造の一部が破壊される事が原因になっている。しかし本来あるべきではない窒素や酸素が入り込む事が原因の場合もあり、一概に放射線だけが理由ではない。

ダイヤモンドの原子構造上、カラーダイヤモンドの色はどんなに美しいものでも微妙にくすんでいる。分かりやすく言うと、最高級のエメラルドの緑、サファイアの青、ルビーの赤に勝てる色を、カラーダイヤモンドは出すことができないとされ、茶、もしくはグレーがかったりしている。カラーダイヤモンドに限らず無色透明のダイヤモンドにも頻繁に起こるが、特にカラーダイヤモンドの蛍光性率は高くなりがちだ。蛍光性は鑑定書にも明記されており、通常それ程色に影響はないが、蛍光性が強すぎるとボヤっと膜が張った様な感じに見えるので注意が必要だ。

ジェニファーのダイヤモンドも、緑というよりは黄緑に近く、俗称としてカメレオンダイヤモンドなどと言われる色味に見受けられる。さらにこの色味のタイプは蛍光性の強いものも多く、ジェニファーのダイヤも例外ではなさそうだ。カラットは石の大きさでなく重さの単位なので、公表が無い限り見た目ではダイヤモンドのカラット数は分からない。指についている感じから、5カラット前後ではないかと言われているが、もし5カラットの緑のダイヤモンドならいくらぐらいだろうか?

世界的オークションハウス、クリスティーズの香港オークションで、2016年に約16・8ミリオンUS㌦で競り落とされたのが、オーロラダイヤモンドと呼ばれる5カラット強のヴィヴィッド・グリーンダイヤモンドの指輪だ。ラディアントカットで、角の切れている長方形。それを中心に、小さな丸いピンクのダイヤモンドがぐるりと周りを囲み、、リングのアーム部分にも配されている。これは5月の新緑に朝露が光るような、とても美しい緑で、そしてオークション史上、最大のグリーンダイヤモンド。この緑色に比べれば、ジェニファーのダイヤモンドは黄緑。ここで一気に価格の違いが出るが、それでも1回目のピンクダイヤモンドよりは高価だろう。

ジェニファーは四角のダイヤモンドが好みのようで、ラウンドも、ペアも、今はやりのオーバルカットも1度もないのだ。1、2回目の結婚と、2021年に破局が報道された元婚約者のアレックス・ロドリゲスからのリングは、エメラルドカット。そして3人目の夫だったマーク・アンソニーからのブルーダイヤモンド、ベンからのピンクとグリーンもラディアントカット。実は四角く見えるが角が切れているので、厳密に言うと8角形だが、分かりやすく四角としておこう。

同年代の女性としての今の願いは、ピンクダイヤモンドの二の舞にならないで欲しいということのみである。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。