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誕生石追加!〜地球からの贈りもの、宝石物語

今年も無事に新しい年を迎えることが出来たことに感謝。そして寅年の今年は、年女であるというマイルストーンで、2022年はエンジン全開で進んで行くことを誓う年始。

前回の年女だった12年前、12年後はどんな風になっているだろうと思いを馳せた記憶がある。「こんな風になっていたい」と未来の自分を想像したものの、いざその年が来たらまだまだ達成できていない目標がいくつもある。もちろん12年前より進歩したこともあり、実はこのコラムの連載をスタートしたのが2010年寅年の10月だったのだ。歴史あるこの北米報知にこれだけ長く連載をさせてもらえるとは、本当に感慨深い。

前置きが長くなってしまったが、新春一発目、本題に入ろう。実は昨年末近くの12月20日に、63年ぶりに誕生石が改訂された。誕生石については随分と昔にテーマに取り上げたが、大まかにもう一度。私たちに馴染みのある現在の誕生石は、1912年にアメリカ宝石商組合が作ったものを1952年にいくつかの団体が協議して定めたものだそうだ。日本ではそれを元に、1958年全国宝石卸商協同組合が制定。

1912年の「誕生石」というコンセプトの大元は諸説ある。そのうちの一つが「出エジプト記」に出てくるアーロンの胸当てにはめ込まれた12種の宝石が、イスラエルの12の部族を表すというもの。ただ、誕生石によっては昔はまだ発見されていなかったり認識されていなかった石もあるので、その辺はあまり深く追求しない方が良さそうだ。

追求しない方が良いもう1つの理由は、今回の改定は完全に商業目的だからだ。30年程前のピーク時の宝飾品の国内消費は3兆円を超えていたそうだが、昨年は8000億円程だったそう。簡潔に行ってしまえば、宝飾品への消費者奪回をもくろんでの戦略である。

しかし私個人の意見だが、今回追加された宝石10種類の価格や特徴を考えた時、消費が劇的に増えそうな要素は乏しい。市場に影響を与えそうな、基本的に単価が高めなのはスピネル、タンザナイト、アレキサンドライト、クリソベリル・キャッツアイ。

スピネルは様々な色があり、古くから伝わる大粒のルビーの一部は実は赤いスピネルだったというぐらい、見た目がルビーに似ている。ルビーよりも硬度は少々劣るが、不純物はルビーより少ない傾向で大粒の物が取れるのも特徴。私は以前からスピネルの待遇を不憫に思っていたので、今回の採用には賛成だが、これでスピルネの社会的知名度が上がるかは疑問だ。

タンザナイトは1960年代に発見され、ティファニー社が名付け親。タンザニアで採れた美しいブルーの石を調べてみたら、乞汚いと思っていたゾイサイトという鉱物が自然界で偶然に起きた加熱によって美しい青色に変化していた、と言うのがタンザナイトの発見の経緯である。タンザナイトは原石をどの方向からカットして研磨するかで、サファイアの様な青から、紫が強いものと見た目に大きな差が出る。サファイアの様な青が最も良質とされる。アレキサンドライトは当たる光によって紫か緑に見える独特の特徴があるが、この特徴もかなり良質な石でないと見ることが出来ない。クリソベリル・キャッツアイも、猫の目の様にはっきりとした線が見えるものは高価である。いずれにしろ石の特性と価格を考えたときに微妙な立場の宝石たちだ。

「誕生石=ラッキーアイテム」という刷り込みと共に、誕生石以外は何となくアンラッキー的な刷り込みも起こってしまう。誕生石じゃないことを理由に購入に至らない場合も多々あるのではないか?果たして「誕生石」と名を打つことは、宝飾業界にとって得か損かどちらなのだろう?

「ダイヤモンドは永遠に」のキャッチコピーにより、婚約指輪の殆どはダイヤモンド。しかし誕生石が婚約指輪と言う話は殆ど聞いたことが無い。消費者心理と言うのは、本当に上手く操られている気がしてしまう。

誕生石に関わらず、皆さまにより宝飾品に興味を持っていただくべく、今年も連載をお届けしていきたい。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。