Home 食・旅・カルチャー 地球からの贈りもの~宝石物語~ 敵ながら天晴

敵ながら天晴

筆者:金子倫子

権力の移行がスムーズに行かないだろうという大方の予想の上を行く、混沌とした状況が続いている。スムーズな移行が国家安全保障に関わるというのだから、国民の安全を守るために、敗者の引き際が問われている。

2020年も終わろうとしている。コロナに関しては、ワクチンがいよいよ承認され分配というところまで来ている。しかし感染者と死者の数は予想以上で、医療機関のマヒもすぐ目の前。医療従事者の、「外出は控えて、マスクを着けて」という訴えを、なぜもっと真摯に受け止めないのか。マスク着用などが政治的な思惑に利用されてしまったのが残念でならない。

私がアメリカで学んだ一つの価値観が、公平さである。「グッドスポートであれ」などと表現するが、日本語で「敵ながら天晴」といった精神に近しい。真剣勝負の末の敗者は勝者を称える。だからこそ、今回の選挙とそれに続く混沌とした状況は残念としか言いようがない。

そんなトランプ政権だが、天晴と思える女性達がいるので、混沌とした時代の閉幕という願いを込めて紹介しよう。ホワイトハウス報道官の2人の女性、サラ・ハッカビー・サンダースとケイリー・マケナニーだ。両者とも、多数の報道陣を前にして、トランプ大統領を援護し矢面に立ち続けた女性だ。

サラは2019年6月に退任したが、それまでは北朝鮮の金正恩氏との会談のみならず、トランプ大統領の外国訪問全てに付き添った数少ない人物であり、アドバイザーとして貢献した。時折見せる笑顔は可愛らしいが、基本的に表情をあまり出さず、報道陣からの数々の厳しい質問に堂々と立ち向かった。トランプ大統領はサラの辞任時に「タフだがグッド。ファインな女性。そしてウォリアーだ」と褒めたたえた。サラのトレードマークは、直径9~11ミリと思われる大粒のチョーカータイプの一連の白い真珠のネックレス。柔和な照りが、強面を貫かなければならなかったサラに柔らかさを添えた。報道官時には、レストランでの入店拒否などの話題もあった。表に立ち憎まれ役をポーカーフェイスで立ち向かったサラの心の内は知れない。間違いなくタフな女性だ。自身の父親も元アーカンソー州知事であり、大統領選にも出ているので、公の人間として叩かれることに多少の免疫はあっただろう。しかし今回は全く別次元だったのではなかろうか。辞任から1年余、少しは穏やかな日々を3人の小さな子供と過ごしていて欲しいと願うばかりだ。

サラの後を引き継いだ、ケイリー・マケナニー。ジョージタウンやオックスフォード、そしてハーバードで学んだ、否定しようのないぐらいの才媛である。彼女のトレードマークは、白い金属のクロスのペンダント。地金だけのシンプルな物とダイヤモンドが並んだクロスと、日によって違う。プライベートのカトリックの学校で学んだ、彼女のコアとなっているであろう、カトリックの教えを象徴するかのようだ。幼い娘が1人いるが、乳がんのリスクが高いことから両乳房除去の手術もしており、女性としての痛みも経験している。

主観的な見方だろうが、サラは母の如く、全てを分かった上でわが子を守るようなタフさというか包容力が強面の間に見え隠れする。それに対しケイリーは、うら若き乙女にみる、ある種狂気の一途さと言ったら良いだろうか。ホワイトハウス報道官としてトランプ大統領を援護するその姿から受ける印象が全く違うのだ。

いつかこの2人の女性の本当の胸の内を聞くことが出来るのかは分からない。しかし、この2人が報道陣の前に立った姿は、やはり「敵ながら天晴」と言わずにはいられない。聡明でタフなこの2人が、また違った役割で活躍してくれるのを願わずにはいられない。

今年もご愛読いただきましてありがとうございました。皆様の新年が良いものとなりますように。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。