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明らかになった食と環境 重大な関係と課題

諸事情のため、しばらくお休みを頂いていたこのコラムだが、年末年始になってあまりにも重大な課題が露呈されたことをきっかけに、久々にキーボードを叩くことにした。

その課題とは、先日フランスのパリ市郊外で行われた「国連気候変動会議」の中で、「国連食糧と農業機関(FAO)」が発表した非常に深刻な内容のことだ。過去にこのコラムでは、環境の変化(悪化)と食糧の確保、人間生活へ与える経済的及び栄養学的影響は密接に関係していることを紹介してきたので記憶に残っていると思う。今回のレポートは正にそれを裏付け、さらに深刻に警鐘を鳴らす内容が書かれている。

国連はこれまで、先進国と発展途上国における気候変動への対応の理解や取り組みに大きなギャップがあり、具体案を実現できずにいたが、今回初めて(これは正に歴史的な出来事だといえる)参加国ほぼ全ての賛同の元に協調性のある対応同議案が採択された。1997年12月に京都議定書(COP3)が採択されてから18年経って、やっとここまで来たのだ。

またそれは、この18年間の間に、各国の態度を変えさせる程の大きな環境変化が実際に起きてきたということ、その負の影響が国益にとってあまりにも大きく、むしろ国家の存続そのものに大きな障害となるということに他ならない。

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では、レポートの内容を大雑把に紹介したい。

地球温暖化(気候変動)は地球上全域において、これまでの想像を超える激しい気象現象を起こすになり、それが世界の農業/食糧生産と食糧確保において多大なマイナス影響を及ぼす。そして影響を最も大きく受けるのは発展途上国という。激しい気象現象( 自然災害) とは、台風やハリケーン、竜巻、集中豪雨、干ばつ、洪水、津波などを指す。

具体的には、1980年以来に起きた気候変動による自然災害の頻度は、それ以前に比べて2倍以上になり、特に2 0 0 3 年から2013年までの10年間での経済的損害は、1兆5千億㌦を超えていた。その内800億㌦は発展途上国での家畜や減少した収穫量によるものだ。

FAOの職員によれば、これはあくまでも現時点で明確に把握されている数値で、実際はこれよりも大幅に「悪いだろう」という。その訳は、レポート上で計算された災害が「中型から大型」のものに限られ、局部的な災害や小規模災害のデータが入手しにくいため、調査対象外になっているためらしい。

さらにレポートでは、災害の影響は収穫量だけに留まらず、物流、倉庫、工場、そして失われる土壌等にも及ぶため、一時的なマイナス要因ではなく、恒久的な悪影響もかなりの規模になるとしており、それは各国のGDPにも直接的に反映されるはずという。

53ページからなるこのレポートは、「自然災害による農業と食糧確保への打撃」と題されていて、あたかも「自然体系とは隔離した生活を送っていると錯覚しがち」な我々にとって、まるで頬へ強い平手打ちを食らわせるかのようだ。釈迦も話していて「因果応報」の法則の再認識につながり、専門家による多くの警告や警鐘があったにも関わらず、なんら具体的な対応を取ってこなかった浅はかな我々への戒めのではないか。

レポートでは、今後の影響や予想部分について、さらなる調査/研究が必要としているが、今はっきりしていることは、いまだ増え続けようとしている世界人口に対し、充分な食糧の確保が今後増々困難な方向へ向かっているということだろう。

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このニュースに関連して、このワシントン州でも起こりうる、または起きている事実を幾つか列記しておこう。
1)年々激化する局地的集中豪雨により、肥沃だった耕作地の土壌侵害が起きている。
2)減少する積雪量のために夏期の水源確保が困難になってきている。
3)上昇する海面により海浜地域での食糧生産が難しくなりつつある。
4)海水の酸性化が進行しているため、海中の生態系が崩れ始めている。
5)内陸部では干ばつが深刻化し、農業用の水源確保が難しくなる。

どれも我々の日々の食生活に直結する問題ばかりであることを覚えていただきたい。

これは貧富の差、ロギーの違いを超える、もっと根源的な人類共通の問題で、これからますます深刻化していく。我々が日々行っている行為や「チョイス」が「今」と未来を形成していることを再認識すべきでないだろうか。

そして今後のテーマとして、「いかに人類が『経済』の奴隷になっているか、そのために本来の住み良い社会(環境)を実現できずにいるか」を真剣に考え始める時が来ているのかもしれない。

(朝見 信也)

北米報知は、ワシントン州シアトルで英語及び日本語で地元シアトルの時事ニュースや日系コミュニティーの話題を発信する新聞。1902年に創刊した「北米時事 (North American Times)」を前身とし、第二次世界大戦後に強制収容から引き上げた日系アメリカ人によって「北米報知(North American Post)」として再刊された。現存する邦字新聞として北米最古の歴史を誇る。1950年以前の記事は、ワシントン大学と北米報知財団との共同プロジェクトからデジタル化され、デジタル・アーカイブとして閲覧が可能(https://content.lib.washington.edu/nikkeiweb/index.html)。