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エコ活動から生まれる新生活 

コーヒーに隠された環境問題

朝見信也

今や多くの家庭や事務所、学校や公民館のカフェテリアなどでも普通に見られる様になったコーヒーポッド。小さなカプセルには挽いたコーヒー豆が入っていて、特定の機械に装着してボタンを押すだけで、暖かい入れたてのコーヒーが飲めるものだが、実はそれが今深刻な環境問題へと発展しつつあることは、残念ながらほとんど知られていない。

コーヒー・ビジネスは非常に大きく、裾野の広い商売である。この分野において、世界で年間に動く金額は楽に3 0 0 億㌦を超えるといわれ、3000万人以上が業界に従事しているとされる。

シアトルが世界に誇るスターバックス・コーヒーでも、今やラテやモカと云ったお馴染みのエスプレッソ系ドリンク以外にも、小さなパウチに入ったインスタント・コーヒーから、右記のコーヒーポッドまで様々な便利商品が販売している。この「スタバ」だけを見ても相当の従業員数を抱えているに違いない。

そんな巨大産業が主力消費者層に求められる重要必要条件、または産業側から消費者に訴求する重要ポイントが「便利さ」である。多くのコーヒー愛飲家が、朝の慌ただしい時間帯に飲む場合が圧倒的に多いせいか、手早くおいしいコーヒーを味わえることが大事なのだ。しかし、その便利さの裏側には、取り返しのつかない多くの代償が払われていることを、そろそろ知っても良いのではないだろうか?

1日に米国内だけで消費されるコーヒーポッドの数は、どんなに少なく推定しても約2100万個以上とされ、その内リサイクルされているもの、もしくは再利用可能なポッドが10%だとすれば、1 9 0 0 万個近いポッドが廃棄されていることになる。ほとんどが生分解性のないプラスチックでできているものだ。

中には高いリサイクル性をもつアルミニウムでできているものが多くあるが、実際にリサイクルしている消費者の割合は非常に少ないのが現状だ。残念ながら21世紀に入り16年が経ちながら、国土の広さのせいか、教育の問題か、「リサイクル」というコンセプトが浸透しきれていないのが事実である。

自然環境に整合性のないプラスチックを廃棄した場合、それらは長い間分解されずに形を留め、有害な石油系化学物質を放出し続ける。生態系を破壊しながら野生動物の生存を脅かし続けることになる。

コーヒーの大量消費におけるもう一つの問題は、広大な平坦地で大規模栽培されることによる環境への悪影響だ。周辺へ流れ出したり地中へ浸透する農薬や化学物質、枯渇する地下水、無秩序に自然界へ放出される遺伝子組み換え植物、農業従事者の健康侵害など。コーヒーの産地は赤道を中心に南北に広がる熱帯・亜熱帯の中にあり、今や地球全体に広がっている。世界のコーヒー愛飲者が増えるに従い、その面積は今後も確実に、加速度的に問題を抱えながら広がっていくだろう。

コーヒー生産地の拡大自体もまた深刻な問題である。世界中の平坦な農耕地はほとんど開墾されているので、新規コーヒー農場を開くにはジャングルの奥地を含め、山奥へ広げるしか選択肢は残されていない。だがこうした難しい土地は同時に気候変動の影響を受け易く、広がる農耕地に反比例して収穫量が減少している事態も起きている。新たな環境に人類が踏み込むことで、存在すら認められていなかった新種の病原体を世界に放出する原因になる可能性がある。

コーヒー業界の中には問題を深刻に捉え、解決策を模索・提示してくれている人々が少なくない。新しいコーヒーの楽しみを追求する「サードウェーブ・コーヒー」のパイオニアたちや、サブカルチャー的なミュージシャンも含まれる。彼らは何度も再利用できるポッドや、本当に質の高い極上コーヒーを生産することで、ポッドなどでは味わえない「手作業」でいれるコーヒーの味わい方を提唱している。

私自身もコーヒーには深く関わっていて、多くの場面でサードウェーブの動きを啓蒙している。サードウェーブは決して流行や一過性のものではなく、文化の発展形といえる。個人的には「Slow & ExceptionalCoffees」という名目で、特定種類のコーヒーを紹介したり飲み方を教えたりしている。

サードウェーブでは、栽培農家から消費者までの全ての段階で持続可能なコーヒー文化(経済)を築くことを大前提にしているので、当然環境負荷も少なくなり、同時にコーヒーの質も格段に向上する。

極上コーヒーを味わうには、ポッドのいれ方はあまりにもお粗末だといえる。豊かな時間が豊かな味わいをもたらし、また社会全体も豊かな方向に向くことになる。

(朝見 信也)

N.A.P. Staff
北米報知は、ワシントン州シアトルで英語及び日本語で地元シアトルの時事ニュースや日系コミュニティーの話題を発信する新聞。1902年に創刊した「北米時事 (North American Times)」を前身とし、第二次世界大戦後に強制収容から引き上げた日系アメリカ人によって「北米報知(North American Post)」として再刊された。現存する邦字新聞として北米最古の歴史を誇る。1950年以前の記事は、ワシントン大学と北米報知財団との共同プロジェクトからデジタル化され、デジタル・アーカイブとして閲覧が可能(https://content.lib.washington.edu/nikkeiweb/index.html)。