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第88回 「アルコールディスペンサー笑顔を生む」

今回は、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、文具店主の女性からいただいたご報告。今多くの場所で見かけるアルコールディスペンサーが、来店客を楽しませる存在に変わったというお話。

ちょっとこのディスペンサーを想像してみていただきたい。手押しのポンプ式でなく、センサーに手をかざすと自動でアルコールが射出されるタイプ。本体部分は円筒形、アルコール射出部分は平べったい大きなくちばしのように突き出した形になっており、その下に手をかざすとアルコールが噴き出すものだ。同店でも、当初はそのまま店頭に設置してあった。

しかしある日気づいた。「当たり前に、必ずお客様が立ち止まる場所です。必ずお客様が立ち止まる場所で、お客様をワクワクさせない手はありません!!」

そこで、彼女たちは何を行ったか。ーディスペンサーをペリカンのような鳥に見立て、突き出し部分には黄色い紙を貼り、くちばしに。その根元には可愛らしい目を付け、本体部分の両側に羽を付けた。そして「テッテ君」と名前を付け、可愛いキャラクターにしつらえたのだった。

これだけでも来店客から「かわいい〜」の声が上がったが、彼女らの「お客様をワクワクさせる」作戦は加速した。テッテ君に服を着せ(もちろんその服も手作りだ)、季節ごとに着せ替えた。彼女からいただいた報告書には季節ごとに着飾ったテッテ君の写真も載っていたが、夏には頭に麦わら帽。ハロウィンにはハロウィンらしい仮装。クリスマスにはもちろんサンタの衣装。今年の正月には着物になり、かたわらには門松も置かれた。あまりの本格的な着せ替えに、彼女によれば「初めてのお客様の中にはこれが消毒のアルコールディスペンサーだと気づかないというまさかの事態が発生! テッテ君の後ろに隠してある、予備用のプッシュ式の消毒を使う人もいたくらいです! けれど、来店されたお客様を笑顔にできるせっかくの取組みだったので、続行できるようにスタッフが試行錯誤しました!」。

「必ずお客様が立ち止まる場所で、お客様をワクワクさせない手はありません!!」と思い、スタッフと共に取り組む店。ワクワク系に取り組む方々はいつもそう考える。一方、お客さんは敏感で、感性豊かだ。同店でもお客さんらは大いに喜び、笑顔になった。そして人はそういう店が大好きで、買い物などさまざまな形でお返しをする。そういう悦びの往還こそが商売の本質なのである。

小阪 裕司
山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。