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怒りの声

ミネアポリスで先月に白人警官が拘束した黒人男性を死亡させた事件以来、抗議の運動が連日続いている。夕方以降に抗議運動が激化した週末のシアトルでは、7日にデモ隊に車が乗り入れ、発砲で負傷者も出てしまった。

こうしたことは氷山の一角なのだろうか。3月に地元タコマで黒人男性が警察逮捕の際に死亡したことも報じられ、拘束時に起きた暴行の映像も明るみに出ている。怒りの声は収まらない。

警察暴力に対する抗議運動が広がりを見せる中で、米政権から発信される言葉はデモ参加者への理解、協調、融和を欠いたものが続く。両サイドのメッセージにつながりは伝わってこない。

その中で犠牲者となったジョージ・フロイドさんの弟テレンスさん事件現場から発したメッセージが印象深い。略奪、破壊行為を戒め、社会を変える上で教育や投票の大切さを呼びかけた。

ワシントン州は今年の予備選挙を8月4日に行う。本選挙は11月3日で大統領ら公職のみならず、各自治体、州規模に影響を及ぼす政策是非も問われる。今の熱意、考えが投票に伝わるか、市民の姿勢が問われることになる。

抗議運動は今回に始まったことではく、合言葉となる「Black Lives Matter」は、ミズーリ州ファーガソンで18歳の黒人少年が白人警官に射殺された事件などが起きた2014年に広まった。当時のオバマ政権は人種や宗教などを含め米国全体に根付く問題とし、警察と市民の信頼構築を呼びかけた。政権によって対応のアプローチは対照的だ。

JACLなどの団体も警察暴力に対する抗議声明を発している。デモ参加を呼び掛ける声も届く。首都ワシントンDCの通りが「Black Lives Matter広場」と名称変更されるなど、一連の運動は近年で最も力強く米国社会に深く刻まれそうだ。一方で、ソーシャルディスタンシングのない状況で新型コロナウイルスの懸念もある。秋以降に感染が再度広がるとの見立てもあり、抗議活動を端に事態が悪化することのないようにだけ願いたい。

         (佐々木 志峰)

オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。