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令和元年―ワシントン大学アジア言語文学科課長、ポール・アトキンス教授による解説

645年の大化の改新以来、日本は天皇の代替わりごとに新たな元号を定めてきた。4月1日、日本政府は元号「令和」を発表。そして明仁(あきひと)上皇陛下は4月30日、徳仁(なるひと)新天皇陛下に正式にご譲位し、5月1日のご即位をもって新たな「令和」時代の幕開けとなった。

令和とは、730年代初期に福岡県の太宰府天満宮で行われた「梅花の宴」の様子を記した「梅花の歌三十二首」の序文に由来。この序文は漢文で書かれており、歌自体は5・7・5・7・7の和歌の形式で、日本語で詠まれたものだ。この序文と和歌は、700年代中期に編さんされた日本最古の歌集『万葉集』に収められいる。

序文には「初春(しょしゅん)の令月(れいげつ)にして気淑(きよ)く風和(やわら)ぎ……(後略)」とあり、月はとても美しく、風は優しく(もしくは穏やかに)吹いている、という意味がある。「令」は素晴らしい、「和」は優しいの意で、これらの文字が新元号に引用された。つまり、元の文脈を考えるのであれば、令和とは「素晴らしく、そして優しい」といった意味合いになる。

ここから受ける新元号の印象は、どこか高尚で、優雅、上品な様子だろうか。文化的に洗練され、「平和な国」をイメージさせる。この元号が、中国由来の漢書ではなく日本の国書に由来するという事実は、非常に重要なことだ。日本の古典文学を研究対象とする身としては、個人的にも大変喜ばしい。柿本人麻呂の作品を始め、万葉集に夢中になり、それこそ膨大な時間を今まで費やしてきたのだから。新元号を国書から選ぶことは、日本はもはや文化的に中国に頼ることのない独自の歴史や伝統、そして文化を持つ国である、という日本政府の意思表明を示唆しているのではないか。すでに日本の長い歴史においてそうであったはずだが、これまで「平成」を含むどの元号も漢籍を由来としていた。

とはいえ、「梅花の歌三十二首」の序文自体はやはり漢文で書かれているし、初期の漢籍にならったとも言われている。日本が漢字を使い続ける以上、完全に中国文化の影響から切り離されるということは不可能だ。おそらく日本にとっても、そこが目指す最終地点ではないだろう。いにしえの日本の人々は、中国の伝統文化を取り入れ、自分たち自身の文化的活動に欠かせない要素のひとつとしてそれを組み込み、そして誠実に維持してきた。だからこそ、「元号」という文化は、もともと制度を生み出した中国でさえ廃れているにもかかわらず、日本では今もなお使われ続けているのだ。

(ポール・アトキンス、翻訳:加藤 瞳)

ポール・アトキンス(Paul Atkins)■ワシントン大学アジア言語文学科課長、研究対象は、古典・前近代の日本言語・文学、前近代のアジア研究・演劇・詩、およびそれらの翻訳作品。2017年、『Teika: The Life and Works od Medieval Japanese Poet』(ハワイ大学出版)を上梓。スタンフォード大学で学士・修士・博士号を取得。

 

N.A.P. Staff
北米報知は、ワシントン州シアトルで英語及び日本語で地元シアトルの時事ニュースや日系コミュニティーの話題を発信する新聞。1902年に創刊した「北米時事 (North American Times)」を前身とし、第二次世界大戦後に強制収容から引き上げた日系アメリカ人によって「北米報知(North American Post)」として再刊された。現存する邦字新聞として北米最古の歴史を誇る。1950年以前の記事は、ワシントン大学と北米報知財団との共同プロジェクトからデジタル化され、デジタル・アーカイブとして閲覧が可能(https://content.lib.washington.edu/nikkeiweb/index.html)。