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ジュエリーで語る〜地球からの贈りもの、宝石物語

前回のコラムを書いていた時は、次のコラムを書く頃には「ウクライナでの紛争は終わっているかも、いや終わっていて欲しい」と願っていたのだが、未だ先が見えない。

経済制裁、昔で言うところの兵糧攻めは、ロシアの人のみならず世界各国に影響を及ぼしている。ひとつ言えることは、これは痛み分けだということ。ウクライナの人々の苦しみを考えたら、我々も多少の我慢をしなければならないと思うのだ。ウクライナのゼレンスキー大統領のリーダーシップと勇敢さには、世界中が感銘を受けている。大統領夫人にしても同じである。大統領夫人として母として、ウクライナの女性として人々に勇気を与え導いている。

女性政治家の話題はこのコラムでも何度となく書いており、ジュエリーや服装などは、女性だからこそ効果が発揮されるエッセンスもある。

アメリカのメラニア前大統領夫人は、ファーストレディーとしての政治的活動は歴代の中でもかなり控えめだっただろう。ただ、2018年6月にメキシコ国境近くの施設に子供たちを訪問する際のカーキジャケットの背中に白いペイントで書かれたような「I really don’t care, Do U?」の文字。それに関して「意図はない」というコメントだったが、遠くからでも分かるような背中全体にくっきり書かれたフレーズには本当に意味がなかったのだろうか?

本音を言えない立場という事もあるだろう。だからこそ服に語らせる事で、言えない胸の内を汲みとって欲しかったのかもしれない。

先月下旬に亡くなった、オルブライト元国務長官のブローチの話題は、以前にこのコラムでも書いた。オルブライト元国務長官のブローチが意味するもの、象徴するものが注目を集めるまでにあまり時間を要さなかった。

そもそも彼女がブローチで語ることを始めたのは、国連のアメリカ大使を務めていた1994年。サダム・フセイン大統領に対する自身のコメントに対抗する意味で、蛇(サーペント)のブローチを付けたのが始まり。その後も、本人の著書によれば、良い日はテントウムシや花、気球などの明るいイメージのもの、悪い日は蜘蛛などの捕食系のイメージのもの、交渉が難航していたりするとかたつむりなどのものを選んだと、自身のブローチが注目されていることに気づいてからは、それを有効に活用していたそうだ。

しかし、ブローチで語らせる事だけでは足りず、本人に向かってはっきり言ってしまい、クリントン元大統領に苦言されたこともあると、著書で明かしている。それは、2006年モスクワで行われたサミットでロシアのプーチン大統領に対して発言したというエピソード。プーチン大統領はクリントン元大統領に、「オルブライト国務長官のブローチには注目している」「そのブローチの意味するものは?」と質問。見ざる言わざる聞かざるのブローチのはずだったが、本人がこの問いに対して「チェチェン紛争は悪だ」とはっきり言ってしまったそうだ。その後に、クリントン元大統領から「外交の要である国務長官として軽々しい発言だった」と苦言されたのだということ。

チェコスロバキア出身のオルブライト国務長官は、彼女自身も2度も難民として過ごした事があるそう。1回目はナチス軍侵攻のとき、2回目はチェコスロバキアが共産党の支配になりアメリカへ逃げたときの事。

それを思うと、亡くなる時にウクライナ情勢をどのように思って、どのように憂いて亡くなったのかと思う。

先日、ウィリアム王子と共にカリブ諸国を訪問した英国王室のキャサリン妃。ベリーズ、ジャマイカ、バハマに対する敬意を、ロイヤルブルー、黄、緑、など各国の国旗の色を、服装を通じて表現していた。しかし、過去に起こった植民地制や奴隷制への抗議デモなどにより訪問箇所を減らさざるを得なかった。更にジャマイカ総理大臣がコモンウェルス(イギリス連邦)からの脱退の意向を語るなど、歓迎されることになれてしまったウィリアム王子夫妻には、厳しい現実を突きつけらた恰好となった。

直接に訴えることが難しい人は、ジュエリーに語らせることもある。圧力に対する抵抗、または支援の気持ちをジュエリーに語らせるのだろう。我々も、一人一人が平和に対して意見を表していくことが必要なのではと思うのだ。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。