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メルケル首相〜地球からの贈りもの、宝石物語

筆者:金子倫子

岸田文雄氏が第100代首相となった。しかし、それよりも遥かに気になったニュースは、ドイツのメルケル首相が16年における任務を終了したことだった。女性のトップが一人減ってしまう寂しさを込めて。

メルケル首相と聞いてどんなイメージが頭に浮かぶだろう? ショートヘアーとジャケット姿を思い浮かべるだろうか? 「マミー」という愛称がつくほどの包容力と、時に相手に詰め寄る迫力。タイム誌の2015年パーソン・オブ・ザ・イヤーに選ばれ、同誌の「最も影響力のある100人」にも常連だったメルケル首相。メルケル首相の16年が世界の女性リーダーに与えた影響は図り知れない。

世界の政界で女性リーダーが増えた。しかし、ドイツ首相を16年間務めたのは、稀にみる偉業だ。その稀なる手腕は、服装にも表れている。メルケル首相のファッションは、9割9分で「ジャケットに濃い色のパンツ、そしてフラットな靴」というお決まりパターンだ。

服装のパターン化は、故スティーブ・ジョブズ氏の黒のタートルネックにジーンズとスニーカーというのが一番に頭に浮かぶ。服装を考える・選ぶという決定事項を一つ減らすことで、その時間と思考を他に費やす目的だったそうだ。メルケル首相の服装のパターン化もその意図が見えてくる。

男性の様に「とりあえずダークスーツならきちんと見える」という方程式が、なかなか女性では受け入れられない。女性が毎日ダークスーツしか着なかったら、それはそれで色々言われてしまうのが実情だ。

メルケル首相も「持っていない色が無いのでは?」というほどに様々な色のジャケットをお召しだ。襟元も、定番のラペルが小さめから襟無しまで。素材も、季節に応じて麻や光沢のあるシルク、ウール素材まで多種多様。本人インタビューによれば、ジャケットの色は会場の背景色などに溶け込まないように考慮しているそうだ。ボトムスであるパンツは大体は濃い色だが、ジャケットの下のインナーはジャケットとのコーディネイトがされている。

そしてメルケル首相のジュエリーと言えば、ネックレス。しかもこのネックレス、女性の政治家にありがちなパールのネックレスではない。多くの場合は、天然石だと見受けられる大粒のビーズ状の石が連なった物。最近出番が多いのはシルバー色の平らなビーズが連なったようなネックレス。プラチナかシルバーか?といったところだ。いずれにしろ、それほど高価な物ではないように見えるが、それなりの数をお持ちの様子。

なかでも断トツの存在感だったのが、ドイツ国旗の色である黄、赤、黒を表現するかの如くゴールド、赤、黒の細長いパーツが連なったネックレス。2013年の1500万人が視聴したディベイト時に身に着けており、翌日にはそのネックレス(人ではなく、物なのに)のツイッター・アカウントが出来たほど。ドイツの人々に印象付けたネックレスだったらしい。そのネックレスは、メルケル首相2期目が決まった時にも身に着けていたようだが、このディベイトであまりにも有名になってしまい、それ後身に着けている姿は見られていない。

女性政治家でジュエリーにメッセージを託すと言えば、オルブライト国務長官のブローチが特に有名だが、メルケル首相のネックレスも、パターン化された服装の中で目立ってしまったのかもしれない。ちなみにメルケル首相、結婚指輪も着けていないし、ピアスも開けていないようだ。指輪やイヤリング類は全くと言っていいほど見当たらない。そんなところも潔くてカッコいい。

ドイツ首相として、自国だけでなくEUや世界のトップの中での存在感を確立しつつ、チャーミングな部分も隠さなかったメルケル首相。日本にもそんなリーダーが出ることを願って止まない。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。