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解放と服従のカフブレスレット

筆者:金子倫子

明けましておめでとうございます。2021年は、昨年の分も良い年にしましょう。自分だけの努力でどうなるものでもないにしても、「良い年にしよう」と思うことが重要だなと思う年の始め。

昨年のことを言っていたら前に進めないので、過去の話はやめておこう。皆さんは、映画「ワンダーウーマン1984」をご覧になっただろうか。ストーリーの背景が40年近く前と、完全に過去の話で前振りとは矛盾するようだが、年の始めは元気な話題で行きたい。コロナで公開が延期になっていたのが、ようやく劇場と動画配信サービスで晴れて公開となった。

それにしても、1984年という時代背景が良い。今年は東京オリンピックが開催される予定だが、1984年はロサンゼルスオリンピックが開催された年。当時10歳だった私には、オリンピックの最初の記憶がこのロス五輪だ。多くの読者も覚えておいでであろう陸上のカール・ルイス選手は、この大会で4つの金メダルを獲得した。ロス五輪は私にとって、アメリカを意識した初めてのイベントだったかも知れない。その翌年につくば科学万博が開催され、隣町だったこともあり何度か訪れた。そこでたくさんの日本人以外の人々を目の当たりにしたのが、人生において最初の国際交流だったと思う。「ワンダーウーマン1984」は当時を象徴するような衣装のオンパレードなので、その時代を生きた人には、その観点から見ても楽しめる映画だろう。

私が特筆したいのは、ティファニー伝説のデザイナーとされ、私も大好きなエルサ・ペレッティの代表作の1つである「ボーンカフ」ブレスレットが、パーティーのシーンで登場したこと。主人公でワンダーウーマンのダイアナが、パーティーで着ていた真っ白なドレスは、ディオールの1984年のファッションショーで発表されたものを参考にしているとか。このドレスを着用したダイアナが、恋人のスティーブと一緒にバービー人形として販売されている。「ボーンカフ」ブレスレットは、ペレッティーが骨を見た時にとても美しいと感銘を受け、それを宝物として保管していて、後にブレスレットのデザインに繋がったもの。小中大サイズのバリエーションがある。更に、手首の骨の形に沿う様なデザインなので、右手用と左手用がある。リーマンショックの前は確か5000㌦ぐらいだったが、今や小サイズでもアメリカのティファニー公式ウェブサイトで1万2500㌦、日本の公式サイトでは170万円程である。宝石の付いていない金の地金のブレスレットがこの値段。普通ではそう簡単に買える値段ではなくなってしまった。ただ、シルバーやカーボンなどの素材でも販売されているので、デザイン自体を楽しみたいのであればそちらを試しては如何だろう。

このボーンカフとは別の、ダイアナがワンダーウーマンに変身しているときに両手に着けているブレスレットは、「ブレスレット・オブ・サブミッション」というらしい。劇中でこのブレスレットは(実際はカフと言った方が合っているが)、弾丸を跳ね除けたり、ナイフや刀で切りつけられても弾く、キャプテン・アメリカの盾の様な役割を果たす。強さの象徴の様なブレスレットだ。しかし、映画の原作になっている1942年のコミックス作者へのインタビューを聞くと、ちょっと違った背景が見える。それは、物語で主人公が属する種族であるアマゾン族の女性が、ハンサムなギリシャ人の男性に恋をして、その結果男性支配社会で奴隷の様な扱いを受ける。それを気の毒に思った女神アフロディーテが、アマゾン族の女性を解放するが、その戒めとしてブレスレットを身に着けるというストーリーらしい。全てのアマゾンの女性が15歳になると身に着けるようになり、アフロディーテへの忠誠心の表れでもあるとか。

男性支配社会からの解放を意味するが、同時にアフロディーテへの忠誠や服従を意味するというのが何とも皮肉と言うか。女性解放の歴史の長さは人類の長さなのだろうか。もうすぐ米国初の女性副大統領が正式に誕生する。2021年、女性にとって大きな岐路となることは間違いない。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。