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次世代のダイヤモンド市場〜宝石物語140〜

筆者:金子倫子

紆余曲折はあったが、形は何であれオリンピック開催となりそうだ。日本でもようやくワクチン接種が進み、ここまで来たら、無事にオリンピック閉会式を迎えたいと切に思う。

今月も、人工ダイヤモンドの話。人工ダイヤモンドが市場でこれからどの様な受け入れられ方をするかというのは、世界経済や政治にも大きく影響する。コロナ以前では、元々8兆円規模の市場と言われていた。ダイヤモンドを採掘する人、加工する人、買う人、身に着ける人。大きな産業が大きく変化すれば、チェーン・リアクションで影響の規模は計り知れない。

人工ダイヤモンドのマーケットでの立ち位置を予想するのに、ダイヤモンドに先駆けて量産が可能となった人工ルビーや養殖パールが参考になる。人工ルビーの生成は1800年代中頃には成功していて、1900年代初頭には市場に安定提供できる程度の量産が可能となった。人工エメラルドも、1960年代には市場に出回っている。しかし、どちらもその存在はあまり市民権を得ていない。

これが、パールとなると話は別になる。日本が誇る御木本幸吉が真珠の養殖に成功して以来、この養殖パールは世界中で市民権を得ている。

天然パールは今でもオークションで高価で取引されているが、色も形もあまり揃っていない。少々黄ばんだ感じの6ミリ珠の一連ネックレスが1000万円以上。大粒であれば、億単位で売買されている。一方、ミキモトでは6.5〜7㎜珠の42㎝の一連のネックレスが33万円程。TASAKIでは6.5㎜珠でグレードBの一連が22万円程、7㎜珠のグレードAの一連が40万円程。もちろん、パールも品質や大きさなどで価格は(大きく)前後するので、これはあくまでも目安と思ってほしい。それにしても、天然物は一般人には到底手が出ない数百万〜億単位のものであるのに対して、養殖パールは20万円ぐらいから手に入るという価格の違いは、養殖パールが世界的に市民権を得た大きな肝だろう。

天然物の供給状況も、人口パールが一般化したことに関係するだろう。現在、パールの天然物がどの程度年間生産されているのかが分からないのだが、圧倒的に少ないはず。養殖技術が確立されるまでは、パールとは天然で偶然に貝の中から見つかった物で、王侯貴族が身に着けるレベルの希少品だった。過去には天然しか無かったので、今でも天然パールが自然に作られているはずだが、表立って聞こえてこない。芥子パールは核が無いそうなので(養殖真珠は貝の中に核を埋め込む)、2〜4㎜の平べったいパールは天然ものと言えるだろう。きれいな球体の養殖パールとは勝負にならない。

人口ダイヤモンドはどうだろうか。価格については、人口ダイヤモンドは天然の7割程。とっても微妙。人工でもパールほどに安くなるわけではない(将来的に、効率的な生産で製造費用減があって安くなることは考えられるが)。そうかといって、人工が市場に広く出回れば、天然が価値を保ち続けられるかは疑問だ。学校で習う経済の基本的考え方「需要と供給」、そして「希少性」。希少性があるから高価なのだが、人工ダイヤモンドがいくらでも製造できるとなれば、間違いなく希少性の部分は「×」となる。

そもそも、ダイヤモンドの婚約指輪やらのジュエリーが、富を表すものとしての立場を今ほど保てるだろうか?オークションに出るような数百万円〜数十億円のダイアモンドの需要がなくなることはないのだろう。ただ、数十万円レベルのダイヤモンドとその7割程の値段の人工ダイヤモンド。どっちをとってもメリットがあまりない気がするのは私だけだろうか?現在の妙齢であるミレニアル世代とあと5〜10年で妙齢になるジェネレーションZ。環境問題への関心も深いこの世代が、婚約指輪に天然ダイヤモンドを選ぶのか、人工ダイヤモンドを選ぶのか。はたまたダイヤモンド自体への興味が薄くなるのか。人工ダイヤモンドは、世界を大きく変える可能性を秘めている。

80年代のアメリカに憧れを抱き、18歳で渡米。読んだエッセイに感銘を受け、宝石鑑定士の資格を取得。訳あって帰国し、現在は宝石(鉱物)の知識を生かし半導体や燃料電池などの翻訳・通訳を生業としている。