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ラボグロウンダイヤモンド〜地球からの贈りもの〜宝石物語

ラボグロウンダイヤモンド

By 金子倫子


5月末、トランプ前大統領に有罪評決が下された。「驕る者久しからず」とは言ったもので、どんな栄華にも終わりが来るのは、今も昔も変わらないようだ。

栄華の終わりかどうかはまだ何とも言えないが、天然ダイヤモンドの立場も揺らぎ始めている。

非天然のダイヤは長い間、合成、人工という意味で、「シンセティックダイヤモンド」と呼ばれていた。ところがいつの間にか「ラボグロウンダイヤモンド」という言葉が定着しつつある。

1947年、「ダイヤモンドは永遠の輝き」 のキャッチコピーが流行し、ジュエリー業界で圧倒的独占状態だったデビアス社も、衰退の色が濃くなってきた。そんな同社が今年に入り存続をかけ、かつてない試みに踏み切った。シグネット・ジュエラーズとタッグを組み、天然ダイヤモンドのキャンペーンを発表したのだ。シグネット・ジュエラーズは世界最大のリテーラーと言われ、傘下にはショッピングモールの定番であるケイ・ジュエラーズやゼールズ、そしてシアトルが誇るブルー・ナイルなどを含む約2千700店舗を有する。

SDGsやサステナビリティという言葉が浸透してきた昨今。環境破壊や人権侵害の具現化と言っても過言でない20世紀までの宝石採掘は、非難の対象そのものだろう。現在は閉鎖している南アフリカのキンバリー鉱山。深さ約215m以上とされる穴は、多くの炭鉱労働者の犠牲のシンボルの様で、写真を通しても暗く悲しい。ほかにも採りつくして閉山となった場所も多く、新たな鉱脈を探してはまはた採掘する、というサイクルは、SDGsの観点からは受け入れがたいだろう。それを思うとラボグロウンダイヤが一般的になることは良い事だと言える。

ラボグロウンダイヤの装飾品としての価値が商業的に採算に合うようになってきたのは、この10年ぐらい。それまでは、色味などが天然ダイヤモンドの無色と言われるD〜F色には及ばず、サイズも1ctに満たないものがほとんどだった。それが今や色も不純物もサイズも、天然ダイヤモンドと同等の石がが低コストで製造可能となった。さらにインドのグリーンラブ・ダイヤモンズ社では、約8週間で完成させることができるという。低コスト短時間が達成されているのだ。

デビアス社が有するラボグロウンダイヤのブランドである「ライトボックス」。今年は1ctのD~F色のものが前年の1500㌦から900㌦にまで値下げ。不純物の度合いもベリーグッド(VS2)レベル。色味のグレードを下げれば1ct500㌦。同社のホームページを見ると、同じレベルの天然ダイヤでシンプルな立爪のプラチナリングだと1万5000㌦ほど。リング部分の値段を除外しても、石だけで10倍以上する。さまざまな統計があり、現在の市場のシェアがどのぐらいなのか正確な数字が分からない。しかし環境問題に真摯にならざるを得ないZ世代の若者の半数は、婚約指輪にラボグロウンダイヤモンドの購入に興味があると言われている。

婚約指輪ではないが、テイラー・スウィフトが恋人から贈られた、通称「フレンドシップブレスレット」。金の平な3つのビーズに、それぞれT・N・Tのアルファベットが配置された計4・62ctダイヤモンドのテニスブレスレットも、ラボグロウンダイヤモンドだそうだ。贈り主であるアメリカンフットボール選手のトラビス・ケルシーも自分用に計10・2ctの揃いのブレスレットを注文。今年1月、AFCチャンピオンシップ試合に勝利した彼の首に回されたテイラーの腕に輝くブレスレットが、ちらりとセーターの袖から覗いた時、ファンは大興奮。ミレニアルとZ世代にとって世代の象徴とも言えるテイラー。彼女の経済効果が2ビリオン㌦とも5ビリオン㌦とも言われる今、ラボグロウンダイヤモンドにとって追い風になるのか。

先にも述べたデビアス社とシグネット社のキャンペーンは、ジレニアル(Z世代とミレニアル)をターゲットに「希少性と普遍性」を謳って起死回生を狙っているようだが、スイフティー(テイラーファンのあだ名)世代の心を掴めるか。希少性を取るかサステイナビリティを取るかか? それが問題だ。