100周年、そしてその先
By 金子倫子
4月上旬のこと。日本橋高島屋の「大黄金展」の会場から、販売価格約1千40万円の純金の茶碗が盗まれるという事件が起きた。その茶碗はその日のうちに古物買い取り店で180万円にて売却され、そこから480万円で転売されていたという、何ともきな臭い犯罪である。そんな簡単に盗めるものなのかと驚いたのだが、同展は百貨店で巡業しているとのこと。2023年には長野市で純金の花立て約400万円、2013年には仏具の鈴約530万円が盗難の被害にあっているので、最近の金相場を考慮してもう少しセキュリティに力を入れても良いのではないか?
昨年に佐渡ヶ島にある金山の資料館で金塊を持ち上げるチャレンジをした時に、あまりにもセキュリティが緩そうで、こんな扱いなら目の前の金塊がレプリカというのもあり得るなと思っってしまった。実際は強固なセキュリティだったのかもしれないが、警備の人が同室に居たわけでもなし、金塊を安心して放置しておくほど頑丈そうには見えなかった透明のケース。この事件を受けて、佐渡金山もセキュリティ対策を見直して欲しいなど勝手に思っている。
今年に入り、金相場はグラム1万2千を超えてしまい、別次元の価格に。これはダイエット中の体重に似ていて、行ったり来たりしている時は、「今日は水分取りすぎたから」とか「明日にはまた減っているはず」と自分に言い聞かせて現実逃避をする。しかし行ったっきり戻ってこなくなって初めて、「あ、増えちゃった」と現実に向き合う事になる。金相場も、昨年1年は1万円前後を行き来していたので、また下がってくるだろうと淡い期待を抱いていた。しかし4月は継続して1万2千越えとなり、いよいよ戻ってこないという現実を目の当たりにしている。
筆者が今年50歳で、ハローキティやモンチッチと同い年(デザイン制作日や発売日が1974年)だという事は前にも言及したが、その倍である100周年を迎えたのが、カルティエのトリニティリングだ。100年経っても同じレベルの人気を保つジュエリーだと気づいた時、改めてその凄さが分かる。愛情、友情、忠誠を表す、ピンク、イエロー、ホワイトの3色のゴールドが繋がったオリジナルを筆頭に、さまざまなバリエーションが出ては消え出ては消えて、100年もの間多くの人の心を掴んできた。今のウェブサイトを見ると、「多様性、愛、友情」のシンボルと書いてあった。
記念すべき100周年記念には、円ではなく四角の角が丸みを帯びている、クッション型と呼ばれるトリニティが誕生。オリジナルデザインのMMサイズが約30万円で、このクッション型が33万円程。米ドルだと、約2千㌦と2千200㌦なので、まだまだ買い求めやすい。しかし今日(4月29日)の時点で対ドルの円相場が156円後半。金価格の高騰でこの数年はそもそも値上げの価格見直しが頻発。それに加えてこの円安ときたら、今やブランドのジュエリーは「ちょっと頑張れば」買えるものではなくなってしまった。
何を隠そう、実は私もトリニティに憧れた一人。ジャン・コクトーの様に小指にトリニティを2つ重ね付けした人と出会ったことは無いが、小指から親指まで、思い思いに装っている人には幾度となく遭遇してきた。1998年にラスベガスに行った折、カルティエの店舗を訪れ試着してみた。当時はまだ700㌦ぐらいだったと思う。記念に買おうと思って試着してみたものの、まったくもって似合わずに撃沈。当時は薬指以外にはめる事は考えもしなかったので、あまりにも似合っていない薬指を恨めしく思いながら店を後にした。憧れの気持ちはそのまま持ち続けていたが、あまりの似合わなさに再度試着するのも憚られた。だが今、四半世紀を越えて再び挑戦というのも悪くない。もしくは、この匠の技と英知が詰まったようなクッション型のトリニティ、意外にもシンデレラフィットしてしまうかも。
100年愛されたトリニティは、この先の100年も愛され続けることだろう。美しく手強いこのリングを手なずける事が出来たなら、と想像してはニヤニヤしてしまうのだった。