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インタビュー ベルビュー・チルドレンズ・アカデミー校長 清水楡華さん

昨年から開催されている「ジャパン・フェア」。2017年の実行委員長を務める清水楡華さんに、ビジネスやコミュニティーとのつながり、人生のターニングポイントとなった出来事、これからの計画について話を聞いた。

取材・文:ハントシンガー典子

しみず ゆか
■ 1999 年にベルビュー・チルドレンズ・アカデミー、2014 年にウィロウズ・プレパラトリー・スクールを創設。日本式の学習を取り入れた独自のカリキュラムで最先端の教育を現地の小中学生に提供しつつ、BCA 土曜日学校やバイリンガル児のための日本語学習プログラムにも力を入れる。ワシントン州日米協会役員やシアトル交響楽団「セレブレート・アジア」委員を務めるなど、コミュニティー活動にも積極的に携わる。

最強メンバーで盛り上げるジャパン・フェア 2017

ベルビューで日本文化を紹介するイベント「秋祭り」が、2015年の開催を最後に18年間の歴史に幕を下ろした。後を引き継ぐ形でスタートしたのが「ジャパン・フェア」。2年目になる今年は、七夕に合わせた7月の開催に向けて準備が進んでいる。その中心にいるのが、清水楡華さんだ。

「秋祭りの運営母体であったイーストサイド日本祭の会(ENMA)代表のブルック夫妻(トムさん、克子さん)がリタイアするということで、有志グループのひとりとしてイベント開催に協力したのが最初です」と、清水さん。2015年の秋祭りの際、伝統のアートやカルチャーだけでなく現代の日本の紹介をする「ジャパン・ビジネス・フェア」を同時開催したところ、好感触を得た。そこで名称も改めてジャパン・フェアとし、第一歩を踏み出したのが昨年のこと。この時も清水さんは、同じく有志のひとりである二世復員軍人会のアレン・ナカモトさんと共に実行委員長を務めた。

今は有志グループで定期的にミーティングを行い、魅力的な企画が実現できるよう動いている真っ最中。「シアトルの日系コミュニティーを多方面から築いてこられた方々、そして在シアトル日本国総領事館、シアトル日本商工会にもご協力いただいています」と、清水さん。地元、日本との強力なコネクションをフル活用し、2017年のジャパン・フェアはさらに進化を遂げる予定だ。「幅広い年代層、いろいろな国の人達にも楽しんで貰えるイベントにしようと、来年のための種まきも始めています」と、清水さんは目を輝かせる。

公私にわたり激動の数年間を経て学んだこと

日本から夫の仕事の関係でシアトルにやって来た清水さん。しかし、予期せぬ不幸に見舞われ、人生が一変した。「ちょうどベルビュー・チルドレンズ・アカデミー(BCA)の立ち上げ時に、主人のガンが見つかりました」

学校と病院に通い詰めの過酷な日々が始まった。回復を願った夫は他界。日本に帰ることも考えたが、学校経営という仕事の責任感からそれは出来ず、今につながっている。学校開校一年目にBCAに突然の訪問者が現れる。当時の宇和島屋社長、森口富雄さんだ。「あなた、日本人?」「頑張りなさい」と、声をかけられ、思いがけない励ましに救われた思いになったそう。9人でスタートしたばかりの私立小学校。名もない小さな存在にもかかわらず、わざわざ足を運んでくれた。「森口さんの温かい笑顔に安心したんです。私もいつか人を励ましてあげられる人になりたいと思いました」と語る。

仕事で困難な時でも、そこに笑顔があれば、不思議とスタッフみんなが落ち着いていく。児童が生徒指導で校長室に来ても、児童はもうすでに反省をしているので、笑顔をもって励ます方がやる気を引き出せることが多いという。「森口さんからもらった気付きが、今につながっているように思います。偉大なリーダーから教えてもらった笑顔の効力は家庭でも、仕事でも、教育の場でも同じ。笑っていれば大丈夫」

平日の私立小中学校には、シアトル全域から生徒が通っている。写真は、5年生の生徒たちと清水先生。

お世話になったコミュニティーへ恩返しをしたい

日本から来たばかりの清水さんの子どもたちは、現地校の英語補習クラス(ESL)に入ったが、まるで幼稚園生を教えるようなESLの授業内容に納得できず、自ら日本式で英語や算数を教えていた。子どもたちの学力は特進クラス(Gifted Class)に入るほど向上したものの、そこでは先取り学習が中心。これはいけないと、BCAを設立するに至った。以前から清水さんによる学習法は評判を呼んでおり、一緒に勉強を教えていた同じ特進クラスの子どもたちの保護者も後押ししてくれた。土曜日の日本語プログラム(BCA土曜学校)も、日本帰国を見据えて、自身の子供たちの日本語教育のためにと開いたものだ。独自のカリキュラムが評判を呼び、今では平日の小中学校生徒700名、日本語プログラムで学ぶ子ども300名、職員160名の大所帯。BCAで教える日本式算数をテキスト化した『BCA Math』の出版も実現し、日本から視察団も多く訪れている。

「現在は一般的にSTEMと呼ばれる科学、技術、工学、数学だけでなく、アートのA、デザインのDを加えたSTEAMD 教育に力を入れています。既存の仕事の70%がなくなると予想される将来、知識を教えるのではなく、ものを創り出し、デザインする力を育成する教育が必要」と、清水さんは熱く語る。

BCAとWPSを経営しながらの現在、清水さんの新たなチャレンジは未来の子供たちへのネットワーク作りとコミュニティーの土台作り。ジャパン・フェア開催を通じた多くの出会いで、日系コミュニティーのありがたさを改めて思い知ったと話す。「主人を亡くし、当たり前のことが当たり前でなくなることを知っています。何が起こるかわからない時代、BCAを巣立ったバイリンガルの子どもたちが安心してアメリカ、このシアトルの地で活躍できるよう先人たちが築いてきた日系コミュニティーを未来までつなげていきたい」と、清水さん。

自身の3人の子どもたちも長男が31歳、長女が29歳、次女は27歳となり、それぞれアメリカで華々しい活躍を見せている。自分たちが平和に暮らせるのも、日本人、日系人がアメリカで認められる基盤があるからこそ。かつて自身が森口さんから励ましを受けたように、個人を大切に、夢のある人を応援したいという思いも強い。そこで準備中なのが、非営利団体「あすなろ」の発足だ。「今後『あすなろ』を通してビジネスから教育まで、これから夢に向かって歩いている人たちをサポートし、ジャパンフェアの継続にも全面的に協力していく予定です。たくさんの日本人、日系人からシアトルを引っ張るリーダーが出て欲しい」

そして最後には自分の育った国、日本への恩返しがしたいとのこと。清水さんが活躍する舞台はシアトルから日本へも広がりそうだ。

ジャパン・フェア Japan Fair 2017
7月8日(土)、9日(日)
場所:Meydenbauer Center
(11100 NE 6th St., Bellevue, WA 98004)
詳細:www.meydenbauer.com
入場料:無料
駐車場:無料

日本をテーマに100以上のベンダーが参加し、15,000人以上の来場者が見込まれる大イベント。胡弓奏者の木場大輔さんを迎えての日米コラボレーション・ステージ、日本が誇る航空機産業の展示、寿司職人の加柴司郎さんによるスピーチ、「デパ地下」をイメージした軽食などが予定されている。禅コーナー、花嫁道中の再現、ソフトバンクのロボット「Pepper」の登場も話題を呼びそう。

公式サイト■www.japanfairus.org
問い合わせ■info@japanfairus.org
Facebook ■www.facebook.com/JapanFairUS/
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ソイソース編集長。エディター、ライター、翻訳家として日米で18年の編集・執筆経験を持つ。『マガジンアルク』『日本経済新聞』『ESSE オンライン』など掲載媒体多数。2017年から現職。