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第55回 価値創造活動が変えていくもの

ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)の、あるカーテン・メンテナンス会社の社長からのご報告。今回は、自社サービスの価値化を通じて、社員にとっての仕事の価値も変わっていったお話だ。

同社の主なサービスは、病院や老人ホームなどにカーテンや福祉器具のレンタル・リースをするもので、「メンテナンス」は病室まで行ってカーテンを交換する仕事だ。交換の仕事は多くの同業他社がアルバイトで賄うのだが、同社は創業時から正社員による交換にこだわっている。しかし、現場まで赴いての交換は、遠方になると早出・残業が多く、体力的にも大変な仕事。他の営業・事務等の職種に比べて人気がなく、離職率も高い職種だった。

そんななか、同社は10年ほど前から、ワクワク系の学びと実践を開始。ワクワク系の価値創造活動に踏み込み、価格競争が激化する業界にあって、必然的にメンテナンスの価値創造活動をスタートした。顧客にとって、正社員が交換サービスを提供する価値は何かを考えた。それは、責任感を持ち、現場で気遣いやコミュニケーションをしながらカーテン交換をしていく「ホスピタリティ」を発揮できることにある。その価値にフォーカスして、顧客に訴求するようにした。社員に対しても、ホスピタリティを発揮して顧客に喜んでもらった事例を取り上げて評価する等の取り組みを続けた。

また、5年ほど前からは、カーテン交換のスピードを競うイベント「カーテンツリンピック」をスタート。顧客にはニューズレターで情報発信し、誰が勝つかを投票してもらう事で、メンテナンス社員と顧客の絆作りを図った。すると、顧客がメンテナンスの仕事に興味を持ち、現場でメンテナンスの仕事を見にきたり、積極的に社員と会話をするなどの結果を生んだ。現在、毎年のツリンピックは、メンテナンスメンバーにとって1年に一度の大舞台となっている。

ワクワク系に取り組み始めた社長が入社した当初には男性8名だったメンテナンス課は、現在では男性8名、女性3名の11名。昨年4月に新卒入社した女性3名は全員がメンテナンス課を志望するという状況。かつては人気がなかったメンテナンスの仕事が同社で最も人気のある職種となったのである。

「今年の新卒採用においても、メンテナンスの仕事に興味を持つ人が多いです。実際これ以上は増やせないので、メンテナンススタッフは現在募集していません」と社長は笑う。そして、「なかなか人が来ない、来ても辞めてしまうと言っている会社は、自社の仕事の価値化が足りていないんじゃないか」と、かつての自社の反省を込めて言う。

顧客に自社の商品・サービスの価値を分かってもらい、さらなる価値をも提供するべく行うワクワク系の価値創造活動。それは顧客や業績だけでなく、社員をも変えていくのである。

小阪 裕司
山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。