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第49回 伸び率1000%の墓石店

先日、ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)のある石材店(多くの方には「墓石店」と言った方が分かりやすいだろう)から報告をいただいた。石材店業績向上のためのワクワク系講座でのことだ。その報告で参加者一同驚いたことは、売上が500%、1000%になったということだった。

言うまでもないが、5倍、10倍である。ワクワク系ではこういった成果は珍しくない。しかし、彼らの業種は石材店であり、主な取扱商品は墓石。衝動買いできる商品でもなければ、何度も買う商品でもない。しかも高価だ。それがワクワク系に取り組み始めて1年足らずでそれほど伸びるとは、どういうことなのだろう。

具体的には、5倍になったのは「石塔などの受注件数」、10倍になったのは「お墓のリニューアルの受注件数」だ。

実はこの石材店主、若いころから技能を磨き、技能を競う全国大会で、厚生労働大臣賞などをいくつも受賞している。つまりは「腕が良い」石材店なのだ。しかし、石材店に腕の差があるとは、客側は普段はあまり意識が向かない。重要なお客さんの一つであるお寺さんも、同じことだ。ということは、何もしなければ、石材店主が持つ独自価値が、商売に活かされないということだ。

そこでその石材店主は、ワクワク系を活用して、ホームページなど情報発信の機会を大幅に見直した。動画やSNSも利用。これまでの受賞歴を訴求し、自社の価値を伝えることに徹した。さらには、石塔などの作品集やポスターまで作り、徹底的に高い品質をアピールした。それがお寺さんなどの目に留まり、受注件数が5倍となったわけだ。

お墓のリニューアル受注に関しては、台風で被災した霊園を利用する方々の心に寄り添ったお見舞いレターを送り、自社ならではのサービス、例えば自社工場で製造していること、施工後見えなくなる土台などにも丁寧で頑強な作りにこだわっていることなどを添えて伝えた。結果、リニューアル受注でも新たな顧客が増え、10倍となったのである。

この実践を通して分かち合いたいことはいろいろあるが、まずは「価値を伝える」ことの大切さだ。どれだけ技能を磨き、自社ならではのこだわりや事業資源を持っていても、伝えなければ伝わらない。自分が好きで徹していることが価値として伝わり売上を生み始めれば、そこからはその点を商いの軸にできる。ここが重要だ。今回の報告のように、行動を始めたその日からでも売上が変わる。そしてなにより大切なことは、その商いを通して人生が大きく変わりうる点だ。前回このコラムで「愉しいことだけをやろう」とお伝えしたが、それは商売において、このようにして実現していくのである。

小阪 裕司
山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。