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第40回 引継ぎひとつ、単に業務的にせず

40回 引継ぎひとつ、単に業務的にせず

筆者:小阪 裕司

ある牛乳販売店の、宅配担当者の引継ぎに関するワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)的取り組みのお話。

先日、私が主宰するワクワク系マーケティング実践会の牛乳販売店主から、ご報告をいただいた。彼らの宅配顧客のうち約220世帯を担当していた従業員が退社することになり、他の4名のスタッフに割り振って行った引継ぎの件だ。それまでは単に業務的な内容と書き方の「引継ぎのお知らせ」を牛乳ボックスに入れていただけだったが、それをワクワク系的に大きく変えてみたのである。

ちなみに担当者が変わるときは通常の月より解約が多く出る。同社では平均約3%。今回は220軒の引継ぎなので7軒前後となる可能性があるが、解約による売上の損失は大きい。また新たな顧客を獲得するためにはコストもかかる。いかに既存顧客を減らさないかは大きな課題だ。そこで今回はワクワク系的に考え、引継ぎを絆づくりのチャンスに変えて、解約が出ないようにしようと、スタッフと目標を決めて取り組んだ。

そのためには、まずお客さんに新しい担当者を「感じが良い」「一生懸命」「応援してあげたい」と思ってもらえる事が大切だと位置づけ、お客さんの心がそのように動くためには何が必要で、何ができるかを考えて次の事を実践した。

1.お客さんへ担当者の変更を知らせるポストカードの作成と配布(お客さんの名前を入れる)
2.お豆腐のプレゼント(人気商品)
3.担当者の自己紹介チラシの作成と配布
4.直接お会いできる、お客さんには挨拶をして1、2、3を手渡す

結果、今回の引継ぎによる解約はなんと0軒。これには一同驚いた。また引き継いだスタッフからも、通常は引継ぎ後のお客さんとの関係が親しくなるのに2~3ヶ月ほどかかるが、今回はすぐに良い関係ができた、お客さんが配達に来るのを待っていて「よろしく!」と言われた、名前で呼んでもらった、以前から配達をしていたかのように感じた、など取り組みの効果の報告が相次いだのである。

引継ぎひとつ、単に業務的に考えず、機会として活かす。これはもちろん牛乳販売店のみならず、多くの商売にある機会だ。またここでは解約率に着目し、それを押さえるべく具体的な手を考え、打ち、結果を検証したが、このような考え方と営みが着実に商売を変える。実は同店主、以前はもう牛乳販売店には将来性がないと感じていたそうだが、今は大きなポテンシャルを感じているとのこと。そう。事業とはこうして、育てていけるものなのである。

筆者紹介
山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。

山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。