気づいたら、あっという間に2018年も終わりに近づき、平成最後の年明けまでこれまたあっという間だろう。遅ればせながら岩隈選手、マリナーズファン、そして全野球ファンに多くの思い出をありがとう!
今回は久しぶりにダイヤモンドの不思議と難しさの話を。つい先日、ダイヤモンドの原石から研磨されたダイヤモンド達がお披露目された。いずれも最高峰のダイアモンドである、Dカラー・フローレス。まずは25.36ctのエメラルドカット。そして11.12ctのオーバル、7.15ctのペアーに6.06ctのクッション。全部で67個のダイヤモンドからこの原石から研磨されたが、この結果を成功とするかの判断はコラムの続きを読んでから。
「レセディ・ラ・ロナ」と呼ばれる1109ctの原石は、2015年11月16日にボツワナのカロウェ鉱山で発掘された。この鉱山は、世界で初めて自動ダイヤモンド選別テクノロジーを使った鉱山だそうだ。X線選別テクノロジーは、一時間に150㌧の土砂を判別する。そこから発掘された現地ツワナ語で「私たちの光」を意味するレセディ・ラ・ロナは、サイズとしては史上3番目。宝石としての価値があるダイヤモンド原石としては、史上2番目である。実は、発見当初は1111ctとされたが、その後のオークション出展時に正確な数値に訂正された。ちなみに、歴史上で採掘された史上最大のダイヤモンド原石は3106.75ctのカリナンで、研磨後の石の殆どは、英国王室が所有している。レセディ・ラ・ロナが見つかった時は、そのポテンシャルに期待が集まった。しかし、清流を固めたような透明感が大部分を占めるものの、濃茶色の不純物も十分に目視で確認できる状態。しかも、宝石をそれなりに知るものでれば直感で分かるのだが、原石のクリスタル構造の複雑さが見られた。このコラムでも何度も書いているが、ダイヤモンドには他の鉱物同様に石目というものがある。これに関してはダイヤモンドの特性である硬さが仇となり、石目を考えてカットして研磨するというのは、今のテクノロジーをもってしても容易ではない。加えて、購入前にインスペクションは出来ないはずなのだ。よって、目視によりその石のポテンシャルを見定めなければならない。研磨した宝石がどの位の価値になるか、目視からの計算にて原石を購入する必要がある。
この原石、サザビーズでオークションに出されたときは7,000万㌦のリザーブ価格(最低落札額)がついていたが、結局売れずじまい。この結果は、宝石に関わる人がきちんと千里眼的能力を備えていたと言えるだろう。この原石に7,000万㌦の価値は無いと判断したからだ。結局は21世紀のダイヤモンド王、グラフ氏が2017年9月に約1年の交渉の後、5,300万㌦で購入した。その結果が、冒頭で書いた25.36ctのエメラルドカットのダイヤモンドを筆頭とした研磨後の石たちになったわけだ。
私個人の意見だが、原石が1,000ct 強ありながらも、最大のダイヤモンドが25ct程であるなら、惨敗と言えるだろう。25ctは1,000ctのたった2%程である。例えば、ジュエラーとしてグラフ氏が所有する「エターナル・ツインズ」。同じカロウェ鉱山で発見された269ctの原石からは、50.23ctのDカラー・フローレスの2つ(ツイン)のエメラルドカットのダイヤモンドが研磨された。割合でいうと原石の19%の最高級ダイヤモンドが2つ(38%)である。他にもアフリカのレソトの鉱山から発見された314ctの「デスティニー」という名の原石。ここからグラフ・ヴァンドームという名の105.07ctのDカラー・フローレスのダイヤモンドを筆頭に12個(うち9個はDカラー・フローレス)のダイヤモンドが生まれた。314ctのうち105.07ctと言えば、何と33%程になる。同じ鉱山から357ctの原石も発掘され、それから118.78ctのDカラー・フローレスのグラフ・ヴィーナスが生まれた。愛の化身ヴィーナスの如く、完璧なバランスのハート型のダイヤモンドで、こちらも原石の33%。これらの例でも分かっていただけるように、研磨した最大のダイヤモンドが原石のたった2%というのはかなり残念な結果といえる。
ただ、もしかしたら、グラフ氏はこの結果をその千里眼で見極めていたうえで原石を購入していたのかもと思う。他のダイヤモンドの原石と研磨後の比率を考えると、分かっていた上で、夢を買い人に夢を与えたのかもと思うのだ。
(金子倫子)