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一足先の夏

  春満開の季節を迎えた当地。恒例行事シアトル桜祭・日本文化祭は絶好の時期で迎えることになる。強風で桜が散り始め、天候不安もあるがまずは無事成功を願いたい。

 筆者は春を飛び越え、一足先に夏を体感することになった。テキサス州中南部のオースティンとサンアントニオ。最高気温は連日華氏80度台で90度を超えることもあり、ノースウエスト慣れした肌に太陽の光が強く痛い。

 両都市は車で1時間あまりの近距離だが、両都市の景観は大きく違って見えた。コロラド川が横切る州都オースティンは比較的深い緑も多い。川でボートを楽しむ姿も見られ、洗練されたイメージがあった。ダウンタウンを流れる川に沿って散策できるリバーウォークが人気を集めるサンアントニオはメキシコ文化も程よく馴染み、のどかな雰囲気を受けた。

 お勧めの行き場所も耳にしたが、興味を引いたのは両都市にある庭園。オースティンはイサム・タニグチ日本庭園、サンアントニオには熊本園と呼ばれる日本庭園がある。

 イサム・タニグチ日本庭園は日系移民の谷口勇氏による設計。1914年にカリフォルニア州に渡り、第二次世界大戦の日米開戦で抑留所に送られる経験もしたが、戦後の定住地となったテキサスで平和に寄与する日本庭園の建設を手掛けたそうだ。熊本園はサンアントニオ市と姉妹都市提携を結んだ熊本市が、友好の象徴として89年に築園した。

 サンアントニオには別にジャパニーズ・ティーガーデンと呼ばれる庭園もある。1910年代後半に基礎がつくられ、同所に移り住んで茶屋を営んだジングウ一家との関係が深い。同一家は日米開戦後に庭園から退去を余儀なくされ名称も変更された。その後84年に現在の名称に戻され、現在は米国の歴史登録財にも登録されている。

 どの庭園も米国に根差した日系移民や日米親善の足跡をふかく残す「名所」だろう。

 この時期に米国南部を毎年長期出張する同業関係者は、「桜を日本で何年も見ていない」とのことだった。ふとシアトルの桜が懐かしく頭に浮かんだが、こうした日本にまつわる庭園のひと時が、遠地で心を和ませてくれるに違いない。

(佐々木 志峰)

オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。