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第36回 この売り上げを生み出すもの

今号では、チェーン店の店長らからの報告をもとにした考察をあげたい。

まずは衣料品チェーンの店長から先日に届いた報告。この夏にシャツを重点的に売り伸ばし、他店が昨年比25パーセント減と苦戦する中、売り上げ二桁増を果たしたという。

他店と異なり彼だけが行ったことは、POP(店頭販促物)の改善だ。業績の苦戦が続く昨今、彼はワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)的に「ここのところ低価格のアピールばかりで、商品の価値を伝えられていない」と考えた。また、低価格の実現は自社の努力の賜物である点にも目をつけた。例えばリネンシャツ。昨年は2,990円で売っていたものだが、今年は1,990円。なんと千円もの価格差があるのだが、これは自社の努力によるものだ。しかしPOPに書かれていることは、商品名と価格だけ。これでは、どんな苦労をして、品質を下げずに低価格を実現したのか、その価値の部分がまったく伝わらない。そこで自社努力の経緯をPOPに綴った。具体的には、「昨年よりも1,000円もお安くなりました!」と見出しをつけ、「昨年は同じシャツを2,990円で販売しておりましたが当社バイヤー○○(個人名)が生産過程をすべて見直し…」「バイヤー○○が休み返上(これマジです)で何度も何度も現地の工場へ飛び…」などと語ったのである。

もちろん、このような価値の語り直しを行ったのは、このシャツだけではない。それらの結果としてシャツは大いに売れた。そして店全体の売上も伸びたのである。

次にもうひとつ、食品スーパー店主からの報告も取り上げたい。彼は、自分で作るPOPはとにかく考えるという。それは単に文言やデザインに凝るということでなく、「価値を分かりやすく伝えるには?どのようにPOPに気がつくか?読んだのに買われなかったのは動機づけが足りない?」などなどを熟考するということだ。一方、この報告書にはこうも書かれていた。彼が所属するチェーンの専用パソコンに商品データを流し込むと、商品名と価格だけのPOPが、プリンターから勝手に出て来るのだと。

商いの結果を生み出す本質は何か。それは人の考える力、価値を語り、創造する力だ。私は講演でもよく今回のような事例を取り上げるが、多くの方は単にPOPのテクニックの話として、あるいはその事例に書かれている言葉が効くのだといった方向で考えるようだ。しかし、本質はそこではない。働く人たちの創造性にある。創造性開発は楽ではないが、業績と商売の未来は、そこからこそ生み出されて来るのである。

筆者紹介小阪裕司:山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、 その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。

小阪 裕司
山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。