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第94回 「激動の世の中だからこそ大切にしたいこと」〜招客招福の法則

激動の2022年が終わり、2023年が始まった。思えばここ数年、年末には「激動の1年」と振り返っている気がするが、それほど激動が日常である世の中だということだろう。そしてこの流れは今年以降も続く。だからこそ大事なことは、何が本質なのか、何が結果を出すために不可欠かつ普遍的な要因なのかを見極め、激動に振り回されることなく着実にそこを押さえていくことだ。この課題に対し、ひとつの答えを得られるような機会が先日あった。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員との会合でのことだ。

そこでは昨年の総括的に、値上げをテーマにした座談会を行った。パネリストは5名の経営者。業種はそれぞれ、個人客向けキッチン用品の通信販売、飲食店、食品スーパー、法人客向け紙問屋、法人客向け清掃等のサービス事業者と多彩な顔触れ。いずれも今年、大幅な値上げに成功したが、それは裏を返せば値上げが「顧客に受け入れられた」ということだ。ではその要因は何だったのかと語り合っているうちに、いくつかの共通項が見えてきた。

たとえばそのひとつは次のようなものだ。飲食店オーナーは、とにかく来店客との会話を重視しているという。同店は鴨料理が名物だが、その価値を語るにも会話が不可欠だし、それがなければお客さんとの距離も縮まらないと。同じことを食品スーパーのオーナーも言う。以前はまったく会話のない店だったが、今はそれが花盛り。通販会社オーナーは、お客さんとの直接的な会話はないが、同封物などで会話を作り、お客さんからも多くの反応があると。そして法人対象の2社。紙問屋も近年会話に力を入れていて、顧客に請求書類を送るときですらその封筒に一筆書いて会話を作る。極めつけはサービス事業者で、なんでも近年は、1サービスルートの担当顧客数を以前の7割くらいに落とし、時間的余裕を持たせ、その分顧客先で会話をしてくるよう促しているのだとか。もちろんその分経営効率は落ちる。しかし、値上げが受け入られたのは、会話によって築かれた関係性が大きいと。それには紙問屋も言葉を重ねる。自社も会話を重視し始めてから、顧客との関係性がどんどん変わり、それがスムーズな値上げにつながっていると。

会話さえすれば値上げが上手くいく―そう単純なことを言うつもりはないが、この例のように、世の中には結果を生み出す普遍的な要因がある。激動が続く世の中だからこそ、それを知り、そこを重視して活動することが大切なのである。

小阪 裕司
山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。