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日系プレース

先日ロサンゼルス近郊に所用があった。空港や宿泊先など周辺を事前に調べていると、オンラインマップに日系農場が記されていた。3世代にわたりコミュニティに根付いてきた日系農家だという。突如、「日系プレース」が記憶によみがえってきた。

 本紙で10年以上前にあったコーナーだった。本紙編集部にボランティアで携わっていたリサーチャーの故ジョン・リッツ氏が中心になり、当地の日系史に縁ある建物、場所、記念碑やパブリックアート作品を写真とともに紹介した。

 日系史に詳しいリサーチャーらしく、彼自身が調査に力を入れていた19世紀後半の日系移民に関係する場所などもあった。日系アーティスが残したパブリックアートも多く、遠地取材の際には「ついでに頼む」と故リッツ氏から写真依頼を受けたことがある。

 同コーナーは筆者も携わり、日系移民が眠る小さな墓地、日系人が携わった牡蠣養殖地、歴史ある桜の木、地元日系団体や姉妹都市関連で建てられた庭園など、ゆかりの場所を耳にすれば、別取材で近くを訪れる際に立ち寄った。

 所用で街を歩くときや、車移動の際にふと発見に出会うこともある。建物や通りに書かれた漢字、ローマ字だけでなく、門構え、あるいは木の1本まで秘められたストーリーは興味深かった。 

 シカゴの野球場を囲む歩道を歩いていると、日系関係者の名前が埋め込まれていた。当地出身という二世で球団スタッフとして長年貢献を果たしてきた故ヨシ・カワノさん。テキサス州で車を走らせると、日系移民の名前を冠した通りが目に入った。日系移民の稲作史の一端を知る機会となった。

 カナダのある博物館で東西を結んだ鉄道の歴史が紹介されていた。頭に浮かんだのは日系工夫や日本から輸出された生糸を運ぶシルク鉄道だった。以前、レスブリッジという街を訪れた際に見た「ランドマーク」の巨大鉄橋やフリーウェイ脇を走る貨物列車を思い出した。街中に日系庭園が広がり、仕事現場には柔道道場が隣接していた。あれもまた日系プレースだろう。

 今年もふとした発見を楽しみたい。

(佐々木 志峰)

オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。