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第71回 これからの社会で支持される商売とは

筆者:小阪裕司

激動の2020年が過ぎ、新年となった。年が明けてもコロナ禍は収まらず、日本では新年早々、再度の緊急事態宣言の発出となった。しかし今は、昨年4月の発出時とは大きく異なる。なぜなら、あの頃と今とでは、見えているものが違うからだ。

昨年3月以降、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)の会員からは、コロナ禍での実践、現場報告が届き続けて来た。弊会は産業分類上のすべての業種が集う異業種の会だ。ゆえにコロナ禍での課題や現場での出来事も様々ではあるが、その一方で、業種や、BtoB、BtoCを問わず、共通した出来事もあった。その出来事からは、今年以降、ビジネスの世界はどう変わっていくのか、そこでは何が重要で、何が捨て去られ、何が選ばれていくのかが鮮明となった。

昨年12月26日付の朝日新聞に、京都大学名誉教授・佐伯啓思氏による寄稿文が掲載された。氏は1年を振り返り、特に昨年よく使われた言葉「不要不急」と反対語「必要火急」を題材に論じるなかで、次のように述べた。「(このコロナ禍で)われわれは、『必要なもの』と『不要なもの』の間に、実は『大事なもの』があることを知った」。氏はその「大事なもの」を、「信頼できる人間関係、安心できる場所、地域の生活空間、なじみの店、医療や介護の体制、公共交通、大切な書物や音楽、安心できる街路、四季の風景、澄んだ大気、大切な思い出」と列記していたが、昨年、ワクワク系の現場には、そういうものが確かにあった。

業種を問わず、BtoB、BtoCを問わず、昨年共通して見られた出来事。それは、「不要不急」な商売を営む方が多いワクワク系のお店や会社が、強く支持されていく姿だった。例えばこのコラムでも取り上げた飲食業の方々、その飲食業に原材料を卸している方々も、その後も堅調に商売を続け、前年を大幅に上回る業績となった方もいる。

また、先日直接お聞きしたあるBtoBの商売を営む会社は、顧客が病院関係。昨年は営業活動もままならない中、何か手伝えることはないかと訪問するとどの顧客先でも大歓迎。「戦友」とまで呼ばれたそうだが、その理由はこれまでに築いた関係性からだった。

昨年は、人が「大事なもの」に気づいた年だったと佐伯氏は言うが、まさにそうだった。そしてその気づきは一過性のものでなく、元にも戻らない。さらに言えば、その流れは、そもそも以前から始まっていたもの。昨年はそれが一気に加速した年だったということだ。

今年は良い年になる。なぜなら今お伝えしたように、新しい社会にとって「大事なもの」が何かが明確になり、道は開けたからだ。あとはただその道を、歩むだけなのである。

山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。