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インタビュー 全米大ヒットブロガー 岩田リョウコさん

シアトルから発信するコーヒーブログ「I Love Coffee」が世界中で大ヒットし、書籍は全米ベストセラー、今年2月には日本語版書籍も発売。「アメリカで最も有名なコーヒー愛好家」と呼ばれる岩田リョウコさんに、コーヒーとシアトルの話を聞いた。

取材・文:小村侑子

いわた りょうこ
■イラストレーター、ライター。兵庫県生まれ名古屋育ち。コロラド大学大学院で日本語教育を専攻し、2009年から在シアトル日本国総領事館の外務省専門調査員として日本語教育の職に従事。2012年にコーヒーのトリビアを紹介するブログ「I Love Coffee」を立ち上げる。現在はコーヒーの第一人者として日本を拠点に活動する。フリーモントの「ライトハウス・ロースター」でライトハウス・ブレンドの豆を買ってエアロプレスで淹れるのがお気に入り。
ウェブサイト:en.ilovecoffee.jp

コーヒーなんて飲んだことがなかった

私はもともとコーヒーが大嫌いだったんです。シアトルに来るまでほとんど飲んだことがありませんでした。なんでこんなにまずいのって思っていて。でもシアトルに来てみて、日本では友達に「お茶行こうよ」と誘うところを、ここでは英語で「コーヒー飲みに行こうよ」って言うでしょう。みんなはコーヒーを飲むのに私ひとりがお茶を注文して、お湯とティーバッグを渡される。これがすごく屈辱的で(笑)。それならコーヒーを飲んでみようと思い立ちました。せっかくシアトルにいるんですしね。

コーヒーのウェブサイトを始めた理由は、コーヒーってみんなが飲むもので、誰にでも刺さると思ったから。サイトを立ち上げる前の数カ月間、何をテーマにしようかずっと考えていました。「カフェ巡りのサイトがいいんじゃない?」と友人に言われましたが、そうするとカフェの近くに住んでいる人にしか興味を持ってもらえない。だからもっと普遍的な、コーヒーの雑学を紹介することにしました。世界中の人が楽しめるように。

私はバリスタでも生豆業者でもないので、普通にコーヒーを飲む一般人の目線で書いたのが良かったのだと思います。コーヒーって難しいじゃないですか、豆とか炒り方とか。プロみたいに専門的なことを言う人がたくさんいる。私は別に根っからのコーヒーマニアじゃないから、もっと広くてゆるい。結局そういうコンテンツを求める人の方が多いんです。

難しいことを分かりやすく伝える

大学院までの専門は日本語教育で、最初はシアトルに日本語教育の専門家として来ました。アメリカで教育の仕事をした経験を生かして、難しいことを簡単に伝える方法を考えたんです。私のサイトのネタは、大学の論文やニュース記事から取ったものが多いです。でも内容がすごく面白くても、難しいことを難しく伝えたら分かってもらえないから、パッと見ただけで理解できるものを作りたかった。

インフォグラフィックの一部。科学的な話をイラストで解説しているため、英語でも内容が理解しやすい
(©Ryoko Iwata)

私はベルビューカレッジでプログラミングとIllustratorの基本的な使い方を習ったので、絵を見て言葉を連想できる「インフォグラフィック」のスタイルを取り入れました。イラストや図表を使って情報を視覚的に表現する技術です。それがアメリカの大手メディアサイト「マッシャブル(Mashable)」に取り上げられて、そこから色んなメディアに載って、気がついたら有名サイトになっていましたね。サイトは日本語版と英語版がありますが、英語の方が圧倒的に人気があります。

人のつながりに助けられた

本を出版できたのはすごくラッキーでした。サイトを見たアメリカの編集者から声がかかったんです。本を出すのって普通は出版社に持ち込みをして色々苦労するみたいなんですけど、私の場合は向こうから来てくれた。日本語版の出版が決まったのも同じで、友人が経営する渋谷のコーヒー屋に私の本が置かれているのを、たまたま通りがかった日本の編集者の方が見かけて「日本で出版しませんか」と声をかてくれました。

人とのつながりが本当に大事だと思います。大手サイトに取り上げてもらえたのも、本を出せたのもただの偶然で、私は何も知らないまま、いろんな人に助けてもらいました。仕事においては本当に運がいいんです。

私の運は全て仕事に吸われて、その分プライベートでは全然だめですね。以前は寝室にひとりでいると「こんな広いベッドにどうやってひとりで寝るんだろう」と寂しく思っていたのに、最近は何も感じない。それどころか、ベッドで斜めになって寝てる(笑)。もう他人の入る余地がありません。それはそれで楽しくやってますけどね。

好きなことじゃないからうまくいく

シアトルはスターバックスに代表されるように、コーヒーのセカンドウェーブの発祥地。雨が多く寒い気候に合った、濃くて深い味のコーヒーが主流です。世間の流行はサードウェーブで、浅煎りの酸味あるコーヒーをおしゃれなカフェでサッと飲んで帰るのが格好いいとされていますけど、やっぱり私はシアトルのスタイルが好きですね。初めてコーヒーを覚えたのがシアトルですし、私が育った名古屋の喫茶店文化に似ています。居心地の良いカフェにずっと居座って、何杯もドリップコーヒーを飲む。これが一番落ち着きます。シアトルのコーヒー文化は私のルーツですね。

不思議なもので、あんなにコーヒーが嫌いだったのに、今はコーヒーの仕事をしてコーヒーに生かされています。好きなことじゃないからうまくいったのかもしれないですね。熱が入っていないので、自分を外から見ることができる。みんなが欲しいものを冷静に考えて出せるんです。私は文章を書くのも絵を描くのも大好きなので、しばらくは日本に戻って日本のテイストを勉強して、今度は日本で新しい本を出したいと思っています。

リョウコさんが教える、クスッと笑えるコーヒーの豆知識。「コーヒーを飲んだ後に体の中で起こること」「イケてないコーヒーのオーダー」「サードウェーブについて」など、コーヒーにまつわる基礎知識から専門知識までをイラストと共に分かりやすく解説する。日本語版では新たにボーナスページ20ページを追加。

紀伊國屋書店とのコラボによる限定品。リョウコさんが描くゆるくてかわいいイラスト入りのマグカップを使えば、コーヒーがより一層おいしくなること間違いなし。アメリカ国内の紀伊國屋書店でしか購入できないので、日本へのお土産にも喜ばれそう。スペースニードルが描かれたマグカップはシアトル店のみの販売。

トリコ小村
編集・ライター。ワシントン大学のビジネスクラスを履修中、インターンで入ったソイソース編集部にそのまま入社。2017年編集長を務める。現在は日本で小鳥ライターとして活動中。ライフワークは「人の話を聞く」こと。コトリ2羽とニンゲンのさんにん暮らし。 Twitter/Instagram @torikomura