Home コラム 一石 久しぶりのID

久しぶりのID

しばらく足が遠のいていたインターナショナル・ディストリクト(ID)。この夏に所用で数度、一瞬ながら足を運ぶ機会があった。

 時間帯によるのかもしれないが、街をかっ歩する若者の数は以前よりも増えていた気がした。ジャクソン通りのID入り口の脇にベーカリーが入り、若い世代向けの店ができたからだろうか。雰囲気は筆者が常勤していたころに比べて変わったようだ。アパートも建っているので新たな住民が増えているのかもしれない。

 日本などで新しい街づくりの支援に携わっているという知人がシアトル、ポートランドの街の様子をこの夏に視察した際、「うまくいっているところは若者が参加しやすい形で、うまく巻き込んで街づくりを進めている」と話していた。その意味ではIDのビジネス面は、遅ればせながらも良い流れに乗りつつあると言えるのかもしれない。

 生まれ変わる町。多くのストーリー、歴史、文化が根付く地区でも、活気を持続させていくためには欠かせない部分だが、IDの特異性もあり、バランスやかじ取りには困難がともなう。地元テレビではID開発に乗り出す出資者とコミュニティー関係者との溝が取り上げられていた。周辺地域に長く居を構える住民や高齢者、低所得者へのケアも欠かせない。何とか安心した生活ができる受け皿は見出していかなければならないだろう。

 その中には非営利団体「敬老ノースウエスト」のシアトル敬老リハビリテーション・アンド・ケアセンターの閉鎖も言及されていた。たまたま仕事先で顔を合わせた知人から耳にして衝撃を受けたが、コミュニティーの変遷、世代で変わる介護の在り方や方向性に加え、厳しい財務事情が重なれば致し方ない部分もある。

 筆者もかつては毎週のように足を運んだが、IDを離れて広がりを見せた日系コミュニティーの核となる数少ない施設だった。IDに建つ介護付き住居「日系マナー」や、その施設を利用した高齢者デイケア「心会」は存続されるそうだが、日系社会が長年力を合わせ運営してきた誇りある団体の岐路で、コミュニティーの持続性という面で心理的な影響も心配される。

     (佐々木 志峰)

オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。