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第48回 たったこれだけで14倍

あなたが居酒屋を経営しているとして、何かお客さんに伝えたいことがある。そこで1ページ分それを書き、誰もが読むであろうメニューブックにそのページを入れ込んで伝えようとするのだが、業種が業種だけに、お客さんらがいったん乾杯してしまうと、じっくり読んでもらえない。そんなとき、あなたはどういう手を打つだろうか?

先日、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)の会員である居酒屋の店主から、こんなご報告をいただいた。同店の店長が就任して3周年を迎えることから、お祝い感を共有し、一緒に盛り上がってもらうと供に、これをきっかけとして、自店の会員登録をしてもらおうと考えた。告知期間は2カ月間。会員獲得数の目標は200人。そこで、店長自ら、就任3周年の挨拶文をしたため、感謝の気持ちを込めたプレゼントとして、当たれば「ビール1年間無料」というビッグな特典もある抽選イベントも企画、この期間中に会員登録していただければ抽選イベントにも参加できるとし、それらの告知を、メニューブックに入れ込んだ。抽選イベントは、はずれてももれなく生ビールのプレゼントがある。期待を持って告知を始めたのだが、最初の1週間で、新規会員はわずか3名。がっかりの結果となった。

しかし、そこはワクワク系のお店。それで終わらず、問題解決に取り組んだ。目のつけどころがワクワク系だったのは、参加が少ない原因を抽選企画やその特典などに求めず、お客さんの行動をよく観察し、乾杯が始まってしまうと、誰も告知を読んでくれなくなるところにあると見たことだ。そこで彼らが打った手はシンプルだ。「ちょっと待ってください!乾杯の前に!!こちらを読んでいただきたい」と大きな手書き文字で書いたメニューと同サイズの紙を用意し、それをメニューブックの、告知ページのところに挟み込んだのだ。打った手はたったそれだけ。しかしその後20日間で新規申し込みは120人。それまでとの対比では、実に約14倍に急増したのである。

人は、ちょっとしたきっかけ、働きかけで動く。これは、昨年のノーベル経済学賞受賞者までもが提唱する、ある意味普通のことで、私たちワクワク系の現場でも実によくあることだ。しかし一方で、ビジネスをやっている側は、思った通りの結果が出ないときに、問題をしばしば難しく、あるいは人の心と行動から離れて考えがちだ。今回彼らが、結果が出ない原因を企画や特典に求めなかったように、常に正解は、人の心と行動のなかにあるのである。

小阪 裕司
山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。