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第35回 「このような貴重なデータが」

先日、ある建設会社の経営者から大変貴重なデータをいただいた。同社は長年に渡って、年数棟の注文住宅建築を中心に、リフォームや不動産事業などを手がけてきた。ここ近年の課題は、既存OB客(以前に同社で住宅を建てた顧客)からのリフォーム工事受注を拡大することだった。リフォーム工事の受注額は、年間約1千万円でずっと横ばい状態。売上全体に対しても、低い割合で留まっていた。それを拡大方向へ向かわせようというものだ。
以前は、リフォーム工事に関しては、「来ればやる」「必要ならば声がかかるだろう」というスタンスだったと同社経営者は言う。結果、外装改修や太陽光発電などの大型のリフォーム案件が知らぬ間に他社へ流出。顧客宅へメンテナンスで訪ねると大きな電化機器が既に他社によって設置されていたり、「おたくは新築専門で、リフォームとかはやってないんでしょ」などと言われたりもし、危機感がつのっていた。そこで同社経営者が始めたことが、「既存客との絆作り」だ。
ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)では、業種を問わず、お客さんが個人でも法人でも、既存客との絆作りを重要視し、そのための具体的な活動を行う。同社のようなケースでは、既存客から他社へ流出していたリフォーム売上を取り戻すことにもなる。
同社経営者も、実際に絆作り活動を行った。それは、われわれがニュースレターと呼ぶ、手作りのサークル会報誌のような紙媒体を既存顧客に送るコミュニケーション活動という極めてシンプルなものだ。他に積極的なセールス活動はしなかった。しかし、それだけで開始後3年目にはリフォームの受注額は倍増し、8年目には5倍に達し、その後も順調に推移しているという報告があった。
この報告は私にとっても貴重なデータだ。リフォーム受注拡大の推移を、ニュースレター開始後から8年間に渡って記録し続けたデータは、絆作り活動がいかに売上をもたらすかを雄弁に物語る。
同時に、同社経営者も強調したことだが、8年目には5倍に達するこの売上の伸びが、絆作り活動初年度と2年目にはまったく見られなかったことも特筆すべき点だ。これは「絆作り活動がもたらす利益にはタイムラグがある」という絆作りの特質のひとつで、長年の多くの企業の絆作り実績を踏まえた、私の研究知見とも合致する。単純に「絆作り活動はなかなか成果につながらない」と早とちりしてもらっては困るが、絆作り活動と利益との因果の複雑さゆえのことである。だからこそ「続けていてよかった」と同社経営者も言う。私もこのような報告データをいただくたびに「このような貴重な足跡が、後に続く人たちにとっての、心のたいまつとなるだろう」と思う。
(小阪 裕司)

小阪 裕司
山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。