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ある早朝にシアトルに到着する飛行便の機内から街を見下ろした。まだ夜明け前で暗く、はっきりとした様子は見えない。目印となるのは当地を南北に走るI-5。車の明かりが延々と続いている。道路状況がはっきりと理解できた。

1カ月弱前の早朝に私用でタコマへ車を走らせたときを思い出した。I-5の南行きはすこぶる順調。だが、反対車線を見るとシアトル南部から大渋滞が続いていた。渋滞が途切れたのはタコマ北のファイフ付近。事故が原因とのことだった。雨の季節が始まり、道路状況が変わる。渋滞の列に加わる運転手たちに同情しつつ、所用を終えた帰り道を考えると気が重くなった。

シアトル・タイムズ紙で市内の自動車所有率がピークを打ったとの記事を読んだ。10月に出された国勢調査によると、市民の所有率は1980年代以来の低さとなる約81%で、2010年から約3%下がった。主要50都市では最も高い減少率だったという。

他の街と比べると、マイアミ、アトランタといった主要都市の所有率を下回った。まだ全米で11番目の所有率の高さ。ニューヨーク市の自動車所有率は45%だという。それでも、ポートランド、サンフランシスコ、ボストンなどは所有率が上がる中、当地に大きな変化が起きたといえる。

この所有率の減少はライトレールが2009年に開通したことが大きい。また多くの住民が新交通システムを享受できる住居地に拠点を持つようになった。ウーバーやリフトといったライドシェアのサービス拡大も寄与しているだろう。シアトルの約6万4000世帯が自動車を所持せず、これは2010年から46%の増加となる。

その一方で人口増によって、所有率は下がっても実際の台数は増加した。2018年のシアトル市民による自動車所有数は45万7000台。2010年は38万9000台。前述のような交通事情の要因を引き起こしている。

2017年の推計と比較すれば、わずかな微減が見られた。また35歳以下、65歳以上で4人に1人は車を所有していないという。今後も流れは変わらず、やがて交通面で緩和が見られるだろうか。当地の生活変化を示す数字として興味深い。

(佐々木 志峰)

オレゴン大学でジャーナリズムを学んだ後、2005年に北米報知入社。2010年から2017年にかけて北米報知編集長を務める。現在も北米報知へ「一石」執筆を続ける。