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第97回 「〇〇しただけで、客数172%の盲点とは」〜招客招福の法則

By 小阪裕司

「〇〇しただけで、客数172%の盲点とは」

今日は、あることを行ったら、客数が172%に伸びたお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、にじます料理店からのご報告だ。

同店は、人口2万人弱のある地方の町で、60年以上も営まれているにじます料理店だ。小さな町ゆえ、店主も「知名度はそれなりにあるだろう」と長らく思っていた。しかし実践会に入会して聞いたさまざまな事例の中のひとつに、「長らく隣に住んでいたが存在を知らなかったリフォーム店」の話があり、彼も「ひょっとして自分が思うほど自分の店は知られていないのでは」と不安になってきた。

ちなみにこのリフォーム店の話とは、次のようなものだ。大阪でリフォーム店を営むある会員が、新しいお客さんからのリフォーム相談を受け、めでたく大きな受注となった。それはもちろん喜ぶべき話だ。だが実はそのお客さん、店のほぼ隣に長年住んでおり、来店の際こう言ったのだ。「ここにリフォーム店があるなんて、知らなかった」。

たしかに、辺りは多くのビルやマンションが立ち並ぶ場所ではある。しかし、このリフォーム店はビルの1階にあり、ウインドウは歩道に面している。立て看板も立てている。しかも、このお客さんが住んでいる立地から考えて、これまで何千回と店の前を通っていることは間違いない。しかし、店があることすら「知らなかった」のである。

そこで先ほどのにじます料理店だ。店主は考えた。年に1、2度、今も町内にチラシを打っている。今までは無意識のうちに、店は知られているという前提で、メニューや時期折々の特別料理の案内をしていたが、今回は「『自己紹介チラシ』を作成することにしました」。

「自己紹介チラシ」とは、同店を知らない人、訪れたことのない人を対象としたチラシだ。ゆえに内容も、「店がどこにあるのか、何を売っているのかをわかりやすく説明する」「にじますというあまりなじみのない魚と料理について詳しく説明する」「『初めての方におすすめ』の提案をする」と店主の言う、「初めての方向け」を徹底した。そうしてそのチラシを配布したところ、次の月の来店客数は前月比で123%、前年同月比ではなんと172%にもなったのである。

長年ここで店をやっている、出店して何年も経つ、そういう理由で人は自店の存在が知られていると思い込むが、そこに盲点がある。当のお客さんの方は、あなたの店の存在を知らないことの方が多いからだ。だからこそ、常に自社や自店が知られていないのではないかと正しい疑問を持つこと。そして、折に触れて「初めての方向け」のアプローチをすることが肝要だ。あなたの顧客になるはずの多くの人たちは、まだまだあなたと出会うのを待っているのである。

山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。