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第82回 どんなときも前を向いて進むために〜招客招福の法則

筆者:小阪裕司

新年となった。昨年はコロナで明け、コロナで暮れた1年だった。私が長らく主宰するワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員にも、その追い風を受けた方もいるが、大半は逆風だった。その典型とも言える業種、バーの店主から先日、最近の動向についてご報告をいただいた。昨年2月に上梓した拙著『「顧客消滅」時代のマーケティング』にもご登場いただいた方だ。

まずは現状、日本では昨年の10月に緊急事態宣言が解除され、その後同店も約1年ぶりの通常営業再開となったが、再開するやいなや「ロケットスタート」。土日平日を問わず盛況とのこと。そんななか、店主いわく、「意外な事実と、緊急事態宣言で動けなかった時に取り組んだ実践が花開いていること」に気づき、いただいた報告だった。

「意外」というのは来店客層だ。当会では一昨年の3月からずっと、コロナ禍での最優先事項として「既存顧客とのつながり強化」を謳い、同店もしっかり行ってきた。そこで「意外」というのは、ロケットスタートで連日賑わう店内の約3割は新規客が占めていたからだった。

これはなぜだろうと、率直にある新規客に尋ねると、次の言葉が返ってきた。「春に転勤してきたけど緊急事態宣言でお店は開いてないし、仕事はリモートでずっと家にいて、仕方なしに散歩していたら、変わった黒板と大きな看板の店を見つけたので、お店が開いたら行こうと思ってました」。この方の言う「黒板と看板」とは、ほとんど営業ができない時期、店主らがワクワク系的な工夫の元に作った店看板と店頭の黒板のことだ。その詳細は省くが、一見して目を惹き、よく見ると行ってみたくなる情報が詰め込まれたもの。通常営業できない時期に進めておいたそのような数々の実践が実り、そこに「待ってました」と訪れる既存顧客も相まっての今だった。

「それでも」と店主は言う。「動けない中で考えるのは大変でした…」「内心は、不安と心配でいっぱいでした」。しかし今日の好業績は、「不安でも実践をし続けた結果だと思っております」。そして、彼は言う。「誰だって負けそうになるよ。でも『信じる馬鹿』になれる環境があるか、そこは大事でした」。

どんな「環境」に身を置くか——それは商売のみならず、人にとって極めて重要なことだ。彼がここで言う「環境」とはわが実践会のことだが、人は環境の影響を強く受ける。ましてこの時代、不安や心配が尽きない中でも、前に進まなければならないのだ。人はそれほど強くない。だからこそ人類の長い歴史の中で、人は人と共に歩むことを選んで来た。

あなたは2022年、誰と共に歩みますか?

小阪 裕司
山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。