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第80回 移転が「心躍る」イベントに〜招客招福の法則

筆者:小阪裕司

今日は、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のダンススタジオ経営者からいただいた報告を題材にしよう。

同店は、レッスンに使っているスタジオを移転することとなった。といっても同じビル内でのことだが、そのことを顧客に伝えると「楽しみですね!」の反応が。店主はこう思った。「コロナ禍で良い・うれしいニュースがあまりない中で、うちの生徒さんにとっては、『スタジオが新しくなる』ということが『心躍るイベント』になっているのかも…」。そこで早速、この「移転」を「ワクワクイベント」として企画していくこととした。

彼女らが行っているイベントを列挙しよう。

イベント1:スタジオの公式LINEアカウントで新スタジオの工事の進み具合を投稿。そこでは、不動産の担当者や、今回工事を行ってくれる大工さん(実は生徒の一人)らも紹介。

イベント2:新スタジオ工事現場見学会を実施。同じビル内での移転であるため、レッスン終了後に工事現場に案内するというやり方で行った。

イベント3:現スタジオの掲示板に新スタジオのコーナーを設けオープン日を掲示、そこでカウントダウンを実施。

イベント4:現在自分がアロマを学んでいることから、「スタジオの香り」を作り、オープン日に生徒たちに、オープン記念として渡す予定。

列挙したものを見てお分かりになると思うが、どれも大げさではなく、ささやかなものだ。しかし生徒たちには大好評。特に公式LINEアカウントでの、「ダンススタジオの命」である床張り現場の動画投稿は、最も反響が大きかったという。

ワクワク系では、従来この手の「顧客の巻き込み」が盛んだが、ここでの学びは2つある。1つは、今回のような「過程の共有」がこれから一層、「サービス」として重要になる、もっと言えば「提供している価値」そのものになるということだ。今回の例で言えば、従来ダンススタジオが提供しているサービスはレッスンでありその場であるスタジオだが、ここに「スタジオ移転を共に楽しむ」などのものも加わってくるということだ。

そしてもう1つは、この「過程の共有」を「価値」にするためには、そこにコミュニティがあることが前提であることだ。生徒らにとって今回の移転が「心躍るイベント」である根っこには、生徒が単なる「生徒」でなく、このスタジオに絆を感じていることがある。ゆえに、床張りまでもが心躍るものとなる。その上に過程を共有していくことが、また顧客との絆を深くしていくのである。

小阪 裕司
山口大学人文学部卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「人の心と行動の科学」を基にした独自のビジネス理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会を主宰。現在、全都道府県および北米から千数百社が集う。