筆者:小阪裕司
先日、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、東京都内の居酒屋店主からご報告をいただいた。ご存知の通り、日本もコロナ下の真っ只中。特に東京では、飲食店は今年初めから一度も通常営業できていない。そんな最中での報告は、ここ5年の客単価の推移をまとめたものだった。
結論から言うと、ワクワク系を始める前(2016年)と現在(2021年1〜4月)を比較すると、同店の客単価は8割アップした。これをお読みのあなたが飲食店経営者だったら、このアップ幅に驚くことだろう。同店のある場所は東京都内でもオフィス街。いわゆる居酒屋激戦区であり、客単価は競争によりむしろ下がっていく場所なのだ。しかも、昨年からはコロナ。その中、客単価は上がり続けているのである。
同店も、以前は客単価は下がる傾向にあった。店主曰く、すべてのメニューの値段は、常に周りの店の値段を念頭に、それを上回らないようにつけていた。高くすればお客さんが来なくなると思っていたと。しかし今は違う。例えば同店の人気商品であるぼたん鍋は、かつて2800円だったものが現在は3800円。それでも以前にも増して売れているのである。もちろん、単に値上げしたのではない。2016年の頃からぼたん鍋の原価率の高さには悩んでいたというが、現在のぼたん鍋は当時よりさらにこだわった肉を使っている。
しかし現在は、周りの店を見ての売価設定という発想ではなく、高い原価に正当な粗利を乗せた売価を堂々とつけて売ることができているのだ。
ではなぜその売価が通るのか。例えば、人気商品は単なる「ぼたん鍋」ではない。「みかん猪のぼたん鍋」だ。なぜ「みかん猪」なのかといえば、その猪の産地ではみかんの栽培が盛ん。猪はみかんが好物なので、当地ではそれを存分に食べている。そうした猪の肉はみかんの風味がし、他の猪とは一線を画した美味しさとなる。現在同店では、そうした「価値」を丁寧に伝えている。こういったことを、他のすべてのメニューで行っているのである。
念のため言うが、ここで言いたいことは「メニューの書き方」が上手いかどうかではない。「価値を売る力」をつけられるかどうかだ。その力がつくことで、客単価8割アップの結果も生み出せる。
現在も東京都内の飲食店には厳しい情勢が続く中、店主は明るくこう言う。「ワクワク系はテクニックではないので、売上を自分でつくりだすことができます。上達すれば魔法より強力です。もっと上達して、コロナ大魔王を倒したいと思います」